物語に迷いこむまち
とある夏の日。北に位置する小樽でも夏は暑い。強い日差しを浴びながら、バスやタクシーによる出費を減らしたい私は駅から大学への道のりを登っていた。
小樽駅を出て国道697号を進むと信号がなく、膨らんだ道路がある。半年間、地獄坂を登ってきた私のデータによれば、この道路を横断し、商大通りを歩いて行くのが大学までの最短ルートである。
しかし、今日の私はここを渡らず浅草寺まで進んでから商大通りに入るルートをとることに決めた。私に限らずその道を通る商大生は多い。そのルートは民家や木々のおかげで日陰が多いからだ。
コープさっぽろをぬけると、青々とした柳を背負った石の鳥居が見えてくる。おや、あそこに見える茶色い物体は…猫だ!
幸い今日は授業までに少し余裕がある。ちょっと猫とあそんでいこう。嬉々として駆け寄る私に一瞥をくれた猫は、スタスタと昭和感が漂う住宅街へと歩いて行く。
この通りを一本ずれると真新しいアパートがある。この通りの先にキリスト教会がある。小樽の和洋折衷、新旧混在によるふしぎな雰囲気が、まるで私を物語の主人公にしてくれる。
猫はしばらく歩いた後、閑静な住宅街の道路の真ん中でゴロンと寝そべった。私が近づいても緊張する様子はまったくない。きっと周辺の住人にかわいがられているのだろう。
小樽ではよく野良猫を見る。この茶トラのようにふらふらとあちこちの民家でエサをもらったり、気まぐれに現れる猫を住人がかわいがったりするのは珍しくないのかもしれない。
おっと、そろそろ大学に向かわなくては。猫に別れを告げ、元の道へと歩き出す。思っていたよりも奥まったところまで来てしまっていたようだ。
ナワバリに現れた侵入者である私を警戒しているのか、1羽のカラスがカーカーと鳴く。と思ったら、いきなり私の後ろから襲いかかってきた!さっきまで猫とのんびり戯れていたのが嘘のような慌ただしさで、私は物語の世界から現実へと逃げ帰った。
小樽は坂の街。古い街。新しい街。猫の街。ふしぎな魅力のある小樽は、いつもの通学路でさえも、冒険気分を味わうことができる街だ。
(m,t)