横向きに見る坂道
船見坂を登り始めてすぐ、跨線橋が見えてくる。
わたしは毎日ここを通って駅まで行く。
引っ越して初めてこの船見坂を見たときは目を疑った。こんなに急な坂道、誰が登れるか。とにかく文句しか出てこなかった。登ると暑いし、息が切れるし、靴も擦れる。いいことなんて全然ない。
でもただ一つ、 跨線橋を見たときは、なんてジブリに出てきそうな道なんだろうと素直に思った。それくらい、なにか昔の懐かしさを感じるような場所だった。
橋の右側は歩行者専用の通路になっている。高いフェンスがあってそこから小樽駅のホームや、発着する電車が見える。
少し横に視線を向けると線路に面した高台の道があって、のんびり散歩する人がよく見える。
この道が風情があっていい。
春にはこの道の桜が咲いて、電車と一緒に写真に収めようとする写真家もいるくらいの穴場なのだ。
一度SLが駅に来たときは桜とSLが同時に見れる景色に驚いた。
たくさんの人が跨線橋から眺めていて、親しまれている道なんだと実感した。
夏は横道の木陰が涼しくて、近くのコンビニでアイスを買って散歩しながら歩いたこともある。
秋もやっぱり紅葉が綺麗で坂道を登るわたしの楽しみになっている。
冬は寒くてあんまり景色を眺めてる暇はないけど、家から汽笛の音がよく聞こえる。寒がってないで!と布団から出れないわたしに発破をかけてくれるみたいで重宝している。
そんな季節ごとの顔を見せてくれる跨線橋のおかげで、最初はあんなに嫌だった船見坂の登山も、いつの間にか楽しみに変わっていた。
今では登山にもすっかり慣れてしまった。船見坂を休み休み登ることはなくなったけど、ついつい足を止めてしまうここの跨線橋の雰囲気がわたしは好きだ。
船見坂の由来は海の船まで見通せるほどの真っ直ぐな景色にあるけど、たまには横を向いて線路を眺めてみるのもいいものだ。
季節ごとの線路が迎えてくれる道に励まされている。
(いわし)