伝統のタクシー
小樽に来るのに、多くの人がJRを利用するだろう。そのJRを出てすぐ、そこにあるタクシーの台数に驚かされる観光客も少なくない。少なくとも二十台以上は常にいるだろうか。小樽の観光にタクシーを利用する人たちもしばしば見るが、いやそれでもこれほどの台数が必要なのだろうか?必要なんです。
坂の上にある小樽商科大学という大学に通う生徒たちは、駅からの通学に三つの手段を用いる。歩くか、バスか、タクシーかだ。
これだけ聞くと、タクシーに乗るなんてリッチねぇと思うかもしれない。そんなことはない。大学生は貧乏だ。
電車を下りた学生たちはタクシー乗り場へと向かっていく。そして、まるでタクシーが公共交通機関かのように次々と乗り込んでいくのだ。一つの車に、四人の学生。同乗者の顔を知らなくたって関係ない。だって、その方がバスよりも安いのだもの。かく言う私も、もう何度も利用させていただいている。
これは、小樽商大に昔からある伝統らしい。支払いは助手席に座った人がして、降りてから200円ずつ徴収する――など様々なルールがあるが、これらは全て誰から教えられることもなく継承されてきたルールだ。誰が作ったのかも知らないし、いつの間にか皆そのルールを当たり前のように知っているのだ。
タクシーの運転手さんも、この文化をもちろん知っている。なんせ、目的地を言わなくたって出発してしまうほどだ。他にもメーターが普段より多く回ってしまったときはまず間違いなくオマケしてくれる。なんともシステマチックだ。
でも、そういった学生同士や運転手さんとの無言のつながりも、私は嫌いではない。本当に知らない人同士でタクシーを相乗りすることなんて、他の大学でありえるだろうか。いくら上客とはいえ、メーターの超過をいつでもオマケしてくれるだろうか。
私はこの文化を、小樽の街だからこそできあがった、冷たいようで暖かいものだと思っている。
(くまはじ)