消防士と坂

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 私は道に迷っていた。

 私は小樽市の水天宮を見た後、南小樽にあるメルヘン交差点という小樽の観光名所に行こうと思っていたのだが、道が分からず迷っていた。現代では携帯電話にGPSが付いていて、行きたい所の経路がすぐに検索できるようになっているのだが、携帯電話の充電が切れていた私には無縁の機能であった。

 仕方がないので辺りを彷徨っていると、しばらくして見覚えのある消防車が私の傍を通りがかった。水天宮で消火栓の周りの除雪をしていた消防車だった。その消防車はすぐに停車して、運転手のおじさんが私に「何処に行きたいのか?」と声を掛けて下さった。どうやら私が道に迷っていた様子を見ていたらしい。私の行きたい所を伝えると、ここからメルヘン交差点の経路を教えてくれた。その消防士に「ありがとう。」と伝えると、彼は清清しい笑顔で去っていった。私は親切な消防士に感謝しながら、教えられた通りに歩いていった。住宅地の中にある地元の人しか使っていなさそうな一車線の小さな道だった。

 そこを抜けると、海が見える視界が開けた場所に着いた。そこからは南小樽の町の昔ながらの街と蒼い海が一望できた。その下には目的地であるメルヘン交差点もあった。そして何より驚いたのは、下にあるメルヘン交差点に行くための坂の傾斜が20度もあったことだ。(小樽の有名な船見坂でも傾斜が15度である。)

 私は生まれて初めて傾斜20度の看板を見た。他の街では見ることの出来ない、海と山に囲まれた坂の街小樽ならではの風景だと感じた。きっと、あの消防士のおじさんが道を教えてくれなかったらこの光景に出会うことは出来なかったであろう。彼とこの風景との出会いに感謝しつつ写真をパシャリ。この後は20度の坂を苦労して下り、メルヘン交差点で小樽伝統のガラス工芸・美味しい食べ物を満喫した。

 小樽には観光名所が多数あるが、観光名所を巡るだけではなく、小樽の街中や小さな小道を歩くだけでも小樽でしか味わえない光景や歴史のある街ならではのなつかしさを感じることが出来る。みなさんも是非小樽の街を散策してみては如何だろうか。

(爪楊枝)