20歳の誕生日、60歳の誕生日
僕が19歳のとき、母は還暦を迎えた。例年の誕生日では大したものをプレゼントできなかったので今回は奮発してずっと使えるものをあげようと思い、小樽を回ってみることにした。
僕は小樽の学生であるにも関わらずまともに小樽観光したことがなかったので、一石二鳥だと思いひと通り回ってみると、北一硝子が目に入った。どうせ高いんだろうなと思って見てみると意外と安い。授業の合間でアルバイトをしたお金で買えるぐらいだ。でも、店内がガラス用品でいっぱいになっているのはとても綺麗だった。
どんなものがいいだろう、料理が好きだからお皿だろうか、キッチン用品だろうか、それとも雑貨に疎いからかわいいものを買ってあげようか、それともネタ要素も含んでみようか。
優柔不断な私はしばらく店内をウロウロしていたがハッと目が止まった。
耐熱性のグラス。お酒用。2000円。
母はほとんどお酒を飲まないが、いざ飲むという時はたくさん飲むタイプだ。習慣的に飲まないせいか、いつも適当な湯のみとかコップに入れて飲んでいた。
僕は直感でこれだ。と思った。色は茶色、母親の好きな色。
僕はすぐに買った。母の誕生日はまだだったが、はやく喜んだ顔が見たかったので帰ってすぐ渡すと、割と無愛想な母の表情がパッと明るくなって「とても嬉しいからあなたが20歳の誕生日をむかえた時の乾杯で使う」と言っていました。
そして翌年、私が誕生日をむかえた日、夕食の席で僕もプレゼントを渡されました。
それは母にあげたグラスとまったく同じもので、僕の好きな青色でした。
「もらった時から誕生日におかえしするものは決めてて、一緒のグラスで20歳を祝いたかったんだよね」と母は言いました。
グラスに入れて飲むものではないなぁ、と談笑しながら初めてお酒を、日本酒を飲みました。
でもそれ以降母は、お酒を飲むときには結局それを使っていません。
あなたと20歳と私の60歳の誕生日の思い出としてとっておくものだから使いたくない、と。
たった2000円で、こんな思い出が作れるなら、最高の2000円だったと思う。
(山田拓未)