釣り人。

IronaiPierPark

大学2年生の頃、友人と一緒に小樽散策をした。
季節は秋。天気が良く、まさに散歩日和。
初めて色内埠頭公園に行った。
公園に足を踏み入れると、そこはアスファルトの歩道とは違う石畳の道。
いくつも並んだ石造りの碇に沿って歩き始めると、サーっと流れる風の音を聞いた。
「海が近いからだね。」
友人は、当たり前のようにつぶやいた。

目線の先には一面、澄みわたる青い空。一切、さえぎるものはなかった。
公園には広いグラウンドがあり、子どもたちが遊んでいた。
野球、サッカー、かけっこ、凧揚げなど・・・。
一緒にキャッチボールをしているお父さんと子どもの姿も。
楽しそうにグラウンド中を駆け巡り、乾いた地面には彼らの足跡が残っていた。

港まで足をのばせば、海とたくさんの釣り人が目に飛び込んできた。
空の青さに反射した海もまた、どことなく深い青色をしていたのを覚えている。
飛んでいたカモメが、地面にとまっていたのだが、
人が近づいても中々逃げようとしないので、
地元の人々がよく釣りをしに来るスポットなのかと思わせる。
それとも釣った魚を狙っているのか・・・?

腰を据えて釣りを楽しむ人々を思わずじっと見つめていたら、
一人のおじさんが声をかけてきた。
「ほらっ。これがハゼだよ。」
何度も通いつめているとわかるほどボロボロになった手袋の上には、一匹の小魚。
おじさんの言う通り、「ハゼ」という魚らしい。
「へ~初めて見ました。」
「ここではサヨリやサバなんかも釣れるんだよ。」
優しい声でそう教えてくれた。
釣れたての新鮮な魚は、太陽の光を浴びてキラキラと輝いていて、
目に焼き付いたようだった。
会話はそれっきり。おじさんは再び釣りをし始めた。

「そろそろ行こうか。」
港を後にして、少し寂しい気持ちになったのは、
おじさんとまだまだ話していたかったのかもしれない。
何気ない出来事だったけれど、小樽の人のあたたかさを感じた瞬間だった。

あのおじさんは、まだあの場所にいるのだろうか。

(麻)