毛無山展望所の雲海

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「雲海なら小樽でも見られるよ。わざわざトマムまで行かなくても…」
遠くトマムまで、雲海を見に行くという友人に私は言った。
「そう?でも美味しい物食べたいし、トマムに泊まってみたいし、十勝への旅行なのよ。」
雲海が小樽でも見られる事をまったく信じていない友人。まあ、旅行なんだからいいか…。

実はあまり知られていない小樽の雲海。確かに運がいい人や、通勤などで峠道を車でよく走る人ぐらいしか、見るチャンスはないかもしれない。
小樽でも雲海が見られると知ったのは去年、SNS上の写真だった。小樽に住み始めてすでに15年以上経っていた。去年から「もしや・・?」と思う天気の日には毛無山展望台や天狗山山頂へ行ってみた。薄い雲が市街地にかかっていたり、半分が雲の中だったり、西側から雲が街に流れて来たり、それぞれが美しかった。

そして今年出会う事ができたのは、今まで見た事もない小樽の街を覆う綿のような雲海だった。日の出前から車を毛無山に向かって走らせる。こんなに早起きして展望台まで行って、もしも霧の中だったらがっかりだな…多少の不安を感じつつ、濃い霧の中、国道393号を走って行く。もう少しで展望台へ着くという所まで登ったとき、車は霧の中を抜け出し、左手に朝焼けの空が見え始めた。「やった!」思わず声に出してガッツポーズ。

毛無山展望台に着いたのは日の出の10分前。車を降りて、カメラを構えようとするが、ドキドキして手が震える。目の前は一面の雲、まるで飛行機の中から見るような景色。遠くには増毛連山やピンネシリなどの山々のシルエットが見え、空は日の出前のオレンジからブルーへ変わる美しいグラデーションに彩られている。このままでも十分美しい。
日が昇り始めると、暗かった雲海が一気にオレンジ色に光りだした。太陽の位置が高くなるにつれてオレンジの光はどんどん広がり、朝露にぬれた樹々の葉まで輝いていた。
「ここで十分じゃない。トマムの雲海テラスにも負けないよ。」
市街地からたったの30分で見られる雲海。山が雲に隠れていたら展望台へ行ってみればいい。雲海が見られなかったら、また次のチャンスを待てばいい。これが小樽に住んでいる者の特権。小樽に住んでいて良かったと思う瞬間。

後日談。
ある夕方、友人に「今、雲海になっているよ!」と知らせたところ、「見てきたよ!感動的だったわ!小樽でもこんなにすごい雲海が見られるのね!」と喜んでいた。「良かったね!」と言いつつ、心の中で「ほらね(笑)」とちょっと得意げになる私がいた。

(まがら りか)