励ましの坂
小樽生まれ小樽育ちの嫁さんと結婚して25年を超えた。
ずっと札幌に住み、今では何事もなく暮らしているが、結婚当初は、お互いの文化の違いでビックリしたことがいくつかあった。
その中で一番びっくりしたのは、
「生まれてから一度も自転車に乗ったことがない」
ってことだった。
ある時、何気なしに
「自転車で行けばいいべや」
って言った時に、
「乗ったことがない」
と返された時は、思わずひっくり返ってしまった。
まあ、考えてみれば、小樽は坂の街だも、自転車に乗るのは歩くよりも相当ツラいだろう。
無理もないわなって思った。
ということから、小樽と自転車について何か面白い文でも書けるんでないかと思い、ちと調べてみた。
すると、意外なものを見つけてしまった。
その名も「励ましの坂」。
手宮のバスターミナルから煤田山の項上にある末広中学校までの全長904メートルの坂であり、標高差は83メートル、最大斜度は24パーセントである。
全国の自転車愛好家の間で、この坂を自転車で登りきることが流行っているとのこと。
と、ここまで調べたが、実は私は元商大生である。毎日、あの地獄坂を登っていた身でもあるのだ。
「励ましの坂がなんぼのもんじゃい!」
と思いつつ、我が地獄坂の斜度を調べたら、わずか10%であった。
励ましの坂の半分以下である。
思わず「励ましの坂様」と言ってしまった。
俄然興味が湧いた僕は、早速行ってみた。
が、自転車で登るなんてとんでもないことであり、歩いて登る根性もない。
車で登りましたよ、すいませんね。
それでも、登ってる時は「リフトか!」っていう感覚におそわれ、思わず笑ってしまった。
坂を登りきると、そこからちょっと離れたところに末広中学校があった。
学校の前のグラウンドでは、野球部が練習をしていた。
僕は、彼らの姿を遠目で見つつ、ふと思った。
彼らは、いや、この学校の生徒達は、毎日毎日この最大斜度24%という強烈な坂を登って学校に通っているのだ。
真夏の猛烈に暑い日も、雨の日も、風の日も、吹雪の日でさえもだ。
尊敬に値する、最強の中学生達でないか。
すっかり感心しながら僕は坂を少し歩いて下り、掲載用の写真を撮っていた。
そして、それだけの動作でヘトヘトになっていた。
ちょうどその時、野球のユニフォームを着たひとりの生徒とすれ違った。
・・・・女の子だった。
「なに!! もしかしてグランドで練習していたのはソフトボール部だったのか・・?」
「おたるくらし」に寄稿する以上、間違ったことを書いてはいけない。
キチンと確認すべきである。
しかし、僕にはあの坂を登ってそれを確かめる体力は残っていなかった。
(みょうてん)