張碓駅
我が家には「秘境駅へ行こう!」という本がある。
そして、その中に「張碓駅」が出てくる。
かつて、銭函駅と朝里駅の間にあった駅である。
昭和57年、僕は大学1年だった。
その頃、僕は札幌に暮らしており、小樽まで汽車通学をしていた。
そして、汽車に乗るたびに不思議だなと思っていたのが、その「張碓駅」である。
なんせ、駅のある場所からして変である。
小樽方面に向かった列車で例えれば、左側が崖、右側がゴロタだらけの海岸、その崖と海のほんのわずかな隙間にポツンとある。
「駅前」と称する場所が何もなく、なんせ、道路すらない。
ホームから見えるのは、崖と海と小さな滝だけである。
利用者などいるはずもなく、ほとんどの列車が通過した。
僕は、地元の人がこの駅を利用するにはどうすればいいんだと、常々不思議に思っていた。
が、「秘境駅へ行こう!」を読んで、その疑問が晴れた。
答えは明快!
「張碓駅へ行く道はない。そもそも利用する地元の人が存在しない」のである。
じゃあ、何のためにあったのだろう。
調べてみた。
どうも、昔はにしんの積み出し用として利用していたらしい。
言われてみれば、そばには大きな奇岩(恵比寿岩)があり、そのふもとが何となく小さな漁港に見えなくもない。
が、にしんがとれなくなってからは、海水浴客のための臨時駅として利用していたらしい。
が、僕が覚えている限り、利用者はゼロである。
そんな張碓駅だけど、僕のかすかな記憶なので、時間は間違っているだろうけど、33年前には朝に2本続けて停まる時間帯があった。
9時10分に停まり、次の列車が9時30分に停まる、という感じである。
つまり、20分間だけ張碓駅に滞在することができるのだ。
その頃、友人とよくこんな話をしていた。
「もし人生に疲れたらよ、晴れた日に9時10分の汽車で張碓駅に降りてよ、20分だけ誰もいないホームからぼけらーっと青い海を眺めてよ、気持ち切り替えて9時30分の汽車に乗るってのもいいよな」
世の中にひとつくらい、そんな駅があってもいい。
その張碓駅、平成18年に廃止され、まもなく駅舎も撤去されました。
(みょうてん)