新南樽市場
僕が子供の頃はスーパーなんてものはなかったし、車を持っている家庭なんてのも稀だった。
だから、その当時の奥さんは、小さな買い物かごを腕から下げ、歩いて「市場」に買い物に行っていた。
家にある冷蔵庫だって一枚ドアの小さなものだったから、食材の買い置きなどできず、僕の母親は1日おきに幼い僕を連れ「市場」に買い物に行っていた。
母親は、たまにではあるけれど、市場のお惣菜のお店で、うずらの卵と赤い魚肉ウインナーを交互に串に刺したフライを買ってくれた。
このフライは今でも僕の大好物であり、僕がどんなに機嫌が悪くても、これを与えられると、しっぽを振り「ワンワン」と途端に機嫌が良くなる。
そんな昔の香りを感じさせてくれるのが、「南樽市場」と「新南樽市場」である。
特に僕は、新南樽市場にはよく行く。
市場に入ったとたんにずらーっと並んでいる魚屋さん。
これをゆっくり眺めながら歩くのが楽しくて仕方がない。
僕の中で、時代が昭和に戻るのが分かる。
値段はそれほど安いとは言えないかも知れない。
だけど、スーパーとは量が違う、モノが違う。
先日、今が旬の新鮮な「たち」が山盛りで売られていたので、思わず買ってしまい、家で「たちポン」を腹一杯堪能した。
この「腹一杯」っていうのが大げさでも何でもなく、たちポンが大好物の僕の嫁さんでさえ「もう食べれない」と余したほどである。
いつもの僕なら「おっ、ラッキー」とそれを奪って食べるのだけど、この時ばかりはそれもきつかった。
何とも贅沢な話である。
あと、僕にとって新南樽市場で欠かせないのが、お肉屋さん「ふかさわ」の「手作り燻製」である。
ふかさわさんには、肉のいろいろな手作り燻製が20種類以上あり、そのどれもが酒の肴には最高である。
値段も手頃なので、僕なんか毎回行くたびにどれを買おうか迷ってしまう。
嫁さんは嫁さんで、必ずお惣菜屋さんで「大学イモ」を買って帰る。
どうも、僕にとっての「ウズラの卵と赤ウインナーのフライ」と同じ想いがあるようだ。
ノスタルジーを感じつつも、最高に美味しいものが手に入る。
「新南樽市場」は、宝の山のような場所である。
記:2014.1/26
(みょうてん)