坂巡り。


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手宮に住んでいるおじさんと会うために、小学生の頃よく家族で小樽へ行った。
小樽の印象は‘不思議なまち’だ。当時、手宮の家に行ったあとは、街なかや祝津など色々なところに連れて行ってもらった。僕の記憶の中ではいつも坂があった。おじさんの家の周りでかくれんぼをするときも、鰊御殿に行くときも、とにかく坂ばかり。ものすごく賑わっていた街なかに大国屋という大きなデパートがあった。
そこで買い物をして、確か1階玄関から入ったと思ったが2階から外に出たり、1階から入ったのに地下から外に出たり。どこが1階か2階かがわからなくなる、そんな不思議な体験は札幌で生まれ育った僕には新鮮だった。坂は何か秘密めいていて、わくわくしてくる。上るときは夢中になり、下りるときは眼下の景色を胸いっぱいに吸い込みながらいつも駆け出したくなる。今は自分の家族で坂をゆっくり歩き
たいと思う。急な坂を一緒に息を切らしながら上ったり、途中で振り向いたりしながら、どの坂が‘いちばん好き’かみんなで決めるのだ。小樽には名前の付いていない坂もけっこうあるらしい。もし無いならついでに名前も付けてしまおう。その坂が僕の家族の思い出の坂になる。あの季節のあの時間帯の、匂いまでもがよみがえってくる一瞬の絵が、一生の財産になるかもしれない。

(よし)