おたるの海岸
目の前の海獣たちに夢中になり、プールに視線を落とし歩いていると、足元がコンクリートから石ころに変わる。着いたのだ、例の海岸に。
その海岸は、おたる水族館の館外にある海獣公園の外れに、ひっそりとある。トドやアザラシが暮らす、海を仕切っただけのプールとしては利用されず、海岸のまま残されている。
いつも思うのだが、なぜおたる水族館の人たちは、そこに手をつけなかったのだろう。単純に、プールをそこまで大きくする必要がなかったのだろうか。それとも何か意図があったのか。
この海岸では、カニやヒトデに出会うことがある。近づくと、一目散で岩陰に身を隠す。そっと食べ物を差し出すと、ハサミをこちらに伸ばしてくる。
水族館に来ているのに、実際に、自然の中で生きる生き物たちの姿に触れることができるのだ。
ふと、打ち寄せる波の音や潮の香りを感じて視線を向けた先には、大海原が広がっている。その雄大さに圧倒されて、もはや自分が水族館にいることを忘れてしまいそうになる。こんなにも見事な自然をもつ水族館は他にあるのだろうか。
きっと水族館の人々は、この海岸を“あえて”残すことによって、水族館で暮らす生き物たちの故郷である海への感謝や、自然の素晴らしさを感じてもらいたかったのではないかと私は思う。
魚たちが悠々と泳ぐ色彩豊かな水槽に比べると、目を引くような魅力はないかもしれないが、ここには訪れるだけの価値が十分にある。
だから私は、この場所が水族館の人々の意思によって残されたと思わざるを得ないのだ。
小樽には、小樽運河や手宮線跡地など、“あえて”残された場所がいくつか存在する。今やそれらはその価値を評価され、たくさんの人々の注目の的となっている。
そんな見る目をもつ小樽が生んだあの海岸も、プールになることなくこの先も在り続け、いつまでもその魅力を伝えていってほしいと願う。
(にぼし)
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※本記事の内容は2019年7月時点の情報に基づいたものです。
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