歴史を守る文学館
賑やかな都通りの前を過ぎて少し歩くと、ひっそりと小さな文学館が建っています。市立小樽文学館、そこには観光地の近くにあるとは思えない静かな時間が流れていました。
この文学館が出来たのは昭和53年。
日本で3番目に出来た総合文学館であり、今や市立としては現存する日本最古のものになりました。昭和37年に小樽出身の伊藤整等の尽力により東京に総合文学館が作られた事をきっかけに、市民の間で小樽でも同じものを、という声が上がります。
かつて小樽は全国から優れた作家や画家が集う町であり、当時の小樽には貴重な資料の多くが別々の場所に遺されていました。その資料を1つの場所にまとめて守るために、この文学館が作られました。早くに建てられた総合文学館が次々と閉館に追い込まれたり、民間に払い下げられたりする中で、ここだけが地域の人々の協力のもと、これまで市によって守られ続けてきたのです。
私がはじめてここに来たのは、大学入学前のまだ雪が残る頃でした。観光地を見て回り、歩き疲れた私は、ふと目に留まった建物の中を少しだけのぞいて行くことにしました。コンクリートの建物の外観からは想像できない、木造の、どこか温かみのある優しい室内に不思議と心が安らいだのを覚えています。
扉を開けると、有名な伊藤整、小林多喜二をはじめ、小樽出身の様々な作家の資料が展示されていました。
これらの展示は全て作家1人1人の人生を辿るように並べられています。伊藤整の仕事場を再現した展示では、実際に整が使っていた回転書棚を回してみることができました。
彼が生前毎日聞いていたギイギイという音を今、自分が聞いているのだと思うと、言葉では言い表せない静かな感動がありました。
小樽の小さな文学館、それ以上にここには地域の人々が守ってきた大きな歴史が詰まっています。日本のどこを探しても見つからないものがここにはあります。そんな文学館を静かに、しかし確かに守ってきた町、それが小樽です。歴史と共に生きるこの街で、何かを見つけてみてはいかがですか。
(柘植)
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※本記事の内容は2018年7月時点の情報に基づいたものです。
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