五香

wuxiang00

30年前の大学1年の時、花園銀座商店街沿いにある
「五香(ウーシャン)」という中華飯店に友人達と行った。
ここの中華丼の大盛りが凄いとの話を聞いたからだ。

出てきた大盛り中華丼を見てビックリした。
ラーメン丼にドカっと盛られてきたのだ。

「おお、すげー!」
「うんめー!」

友人達と初めて見た大盛り中華丼に大いに盛り上がった。
そして、メチャクチャ美味かった。

その1年後、僕は小樽でひとり暮らしを始めた。
住んだところは五香に近かった。
が、自炊を基本とする貧乏学生だったので、
五香に行くことはなかった。

ひとり暮らしにも慣れてきた頃、正直に話すと、
僕は段々と学校に行かなくなり、自堕落な生活を送っていた。
部屋にはテレビも電話もなく、その上、学校にも行かない。

僕は世の中で何が起こっているのか、全く分からなかった。

やがて、夏休みになった。
回りの連中が帰省する中、
僕は「ウニの密漁監視」のアルバイトのため、帰らなかった。
バイトでは、ウニを獲る人はほとんど現れず、実際には、
ぼーっと一日中テトラポットに座って過ごすだけだった。

バイト先でも、部屋に戻っても、とにかく何もすることがない。
いつもひとり、ひたすら静かだった。

「孤独」っていう言葉が脳裏をよぎった。

そんな中、久しぶりに五香へ行ってみた。
ちょうど「潮祭り」の時だった。

花園銀座商店街では、「潮音頭」が鳴り響き、
それに合わせて踊る「潮ねりこみ」の人々の列が
延々と続いていた。
そして、その沿道はそれを見て楽しむ人々であふれていた。

小さな階段を上った2階にある五香で、
ひとり大盛り中華丼を食べている最中も、
窓下から潮音頭が聞こえていた。

どんどこざぶん どんざぶん

初めての潮祭り、久しぶりの大盛り中華丼。
楽しいはずなのに、ひとつも心が晴れない。

「こんな生活じゃ、ダメだ」

大盛り中華丼を食べながら、僕はそう思った。

まもなく、僕は学校の近くのオンボロアパート
「富岡荘」に引っ越した。
そして、ようやく本当の大学生活を送り始めた。

・・・五香は今も健在です。

(みょうてん)