時間
まだ肌寒い春、私たちは海へ向かった。
きっかけは忘れてしまった。「今から海行こう!」みたいなその場のノリで、ちょっと大学生っぽいことがしてみたかっただけなのだと思う。
学校帰りにコンビニに寄ってお菓子を買い、車で浜へ向かう。狭い路地裏を抜けて、人があまり来なさそうな浜に着いた。私たち以外は誰もいなかった。
毎日通学中にJRから見ているはずなのに、いざ目の前に海が広がると胸が高鳴るのはどうしてだろう。男子はみんな海に向かって走っていった。私たちはそれを笑いながら見ていた。
以前から企画していたわけじゃなかったからタオルなどはなかった。だから泣く泣く海には入らなかった。その代わりに水切り、カニ探し、きれいな石集め…こんなに楽しめるかってぐらい遊んだあとに、お菓子を食べながら談笑する。
そんなことを繰り返していると、日が暮れそうであることに気付いた。
「どうせだから日没も見ていこう」
そんな一言から私たちは石垣に座り、日没を待った。
空はオレンジに染まり、日の光が水面を照らす。
その間、時間はゆっくり流れていく。
日が山に沈んでいくまでを、私たちはただただ黙って見届けた。こんなに綺麗だと思わなかったし、それに感動する自分にも驚いた。
こんなにまじまじと日没を見届けたのは初めてだった。
現代に生きる私たちは時間に追われ、生き急ぎすぎている。
空を見る。雲が流れていく。
海を見る。水面が揺れている。
山を見る。日が沈んで、夜を迎える。
たまにはこんな風に、時間の流れを感じてみるのも悪くはない。
きっと海には人を癒す力がある。
その力は私たちに生きる活力を与えてくれるに違いない。
(結晶星)