訛り
札幌に50年、小樽に4年住んだ僕にとって、北海道弁はおちゃのこさいさいである。
っていうか、何が標準語で何が北海道弁なのか、区別がついていないというのが実情である。
友人にも「お前は北海道訛りが強い」と言われたことがある。
以前、仕事で名古屋へ出張に行った時、懸命にお客さんに標準語で説明をし、納得していただいた後の酒席で、
「みょうてんさん、北海道弁がすごいですね」
と言われたことがある。
僕は完璧な標準語を話していたつもりだったので、多少のショックを受けつつも、そう指摘をしたその人も見事な名古屋弁だったので、心の中で「お前もな」とつぶやいていたという思い出もある。
ひるがえって、僕の嫁さんは小樽生まれ、小樽育ちである。
小樽育ちのためか、僕とは多少イントネーションが異なる北海道弁を話す。
が、それほど気にならないので、小樽の人も「標準的な北海道弁」を話すものだと思っていた。
・・・・・
今では立派なトンネルができてしまったけど、今から30数年前、高島から祝津へ抜けるには、狭い海岸沿いの道を通らなければならなかった。
そして、その海岸では夏になるとウニやアワビが採れた。
が、それは漁師さんのものであり、一般の人が採るのは密漁である。
なので、それを防止するため、夏休みにその道沿いで密漁を監視するアルバイトがあった。
貧乏学生だった僕は一目散に飛びつき、早速、仕事の内容の説明を受けに高島の漁協へ行った。
そして、漁師さん(漁協の人だったかも知れない)の説明を聞いて驚いた。
だって、浜言葉がすごくて何を言っているのか、さっぱり分からないんだも。
一所懸命説明してくれるんだけど、聞き取れないんだも。
日本語に聞こえないんだも。
一瞬、「ここは本当に小樽か」って思った。
だけど、聞き直すのも失礼かと思い、僕は分からないまま黙って聞き続け、話の合間に適当に相槌を打っていた。
したっけ、ある時、その人が何度も同じことを言っていることに気が付いた。
「お、これは大事なことなんだな」
と、こっちも懸命に聞き取った結果、なんとその漁師さん、
「お前、俺が言ってること、分からないべ」
と言っていた。
僕が適当に相槌を打っていることなど、お見通しだったのだ。
僕はすっかり恐縮してしまい、それからはちゃんと聞いた。
そして、一通り説明が終わった後、お金がなかった僕は、本来は最終日に一括で支払われるバイト料を、1週間に1回払って欲しいとお願いした。
漁師さんは
「お前みたい奴は初めてだ」
と笑いながらも、週1回の支払いを認めてくれた。
それから約1ケ月、毎日、高島海岸の強い日差しの下で密漁の監視をした。
だけど、密漁をする人は案外少なく、僕は毎日テトラポットに座り、青い海を眺めていた。
そしてバイトが終わる頃、真っ黒に日焼けしていた。
あれから30数年。
高島のあの道もすっかり様子が変わってしまった。
もう一度、あのテトラポットから青い海を眺めたい。
そして、もう一度、あの優しい浜言葉を聞きたい。
そう思う。
(みょうてん)