物語に迷い込む夏の日

小樽のまちを歩いていると、至るところでどこか懐かしさを感じる。
また、大学に通い始めて、小樽の野良猫の多さにも気付いた。
長い歴史を持つ浅草寺の敷地内、坂の途中にある小さな公園など、あらゆるところで猫を見かける。

猫という生き物は、愛らしく、自由奔放でゆったりとした時間の流れを感じさせてくれる。
日本のアニメなどでも昔からよく出てくる生物であり、古風な雰囲気を纏う小樽という港町に非常にマッチしていると思う。

私はそんな小樽の風景に“ジブリっぽさ”を感じる。
「崖の上のポニョ」や「コクリコ坂から」などの舞台も小樽と同じ港町であるため、そういった作品が持つ空気感と近いものがあるのではないだろうか。
ジブリと言えば、日本人なら誰でも一度は触れたことがあり、そのどこか懐かしい感じや“あたたかみ“に癒されたことがあるだろう。

駅を出るとまっすぐ向こうに見える港。海に浮かぶ船。ふとした時に香る潮風。燦燦と照る太陽に透ける街路樹や建物に蔓延るツタの緑。
ただ歩いているだけで、一昔前にタイムスリップしたような、アニメのキャラクターになったような気分に浸れるのだ。

小樽は日常であり、また非日常でもあるその感覚を味わえる有数の場所だと感じる。

現代の電子機器の技術は大変便利で今や私たちの生活には欠かせないものであるが、小樽のまちではそのようなものから少し離れて、五感を研ぎ澄ませ、自然の美しさを再発見することができる。
また、オルゴールやガラスの工芸品を売るお店では、商品はもちろんのこと、歩くと軋む木製の床や暖かなガラスランプの明かりが、現代人が忘れていた感性を刺激してくるのである。

じりじりと太陽が照りつけるある夏の日、その外観に年季を感じる店の敷居を跨ぐ。
透明で涼しげな顔をしたガラスたちを見ながら、波と風鈴の音がする店内を歩いた時、夏の爽やかさとノスタルジーさが私を襲い、思わず一人詠嘆してしまったのだ。
貴方も小樽に訪れて、この感覚を味わい、ある物語の主人公になってみてはいかがだろうか。

(白昼夢)


※本記事の内容は2022年7月時点の情報に基づいたものです。

写真:眞柄 利香