星の見える坂
遅めの授業が終わった日、自習室にこもって勉強した日、みんなでわいわい帰るのもいいけれど、たまには音楽を聴きながら下る坂もいいよね。
空を見ながらゆっくり歩いてみて?もちろん足元にはお気を付けを。
空にはたくさんの星が瞬いて、一日の疲れを癒してくれる。
昔の人は日記に「夏は夜」なんて綴ったらしいけれど、この街に言わせれば「夏も夜」。
春はおとめ座の手元にはスピカ、気高き獅子の胸元にレグルス。
夏は言わずと知れた大三角。今年も織姫と彦星は出会えるかな?アンタレスは燃える心臓。サソリは今日も堂々と尻尾を振りかざす。
秋はペガサスを形作る四角形。あ、あれは木星?今日は運がいい。
冬になったら道がつるつる、いつもよりももっと気を付けながら、猟犬を率いたオリオンとそれに対峙する牡牛を確認。カストルとポルックスは仲のいい双子。
白い息を吐きながら、マフラーに首をうずめながら、ぴんっと澄んだ空気に目を凝らす。やっぱり私は冬の空が一番好きかも。
ずっと上を見ていたらちょっと首がつかれてきたかな?
ゆっくり視線を下げてみて。目の前に広がるのは赤、青、白、黄。なるほど夜の星は頭上だけにあるものじゃないらしい。「みんなの生活」が詰まっているからか、こちらの星はほっと、優しい気がする。この街に来て、そんなことに初めて気づいたんだ。
坂を下っていくその間に星に癒され、地上の星に安心し、歩いて歩いて自分もその中に溶け込んでいく。
夜の坂の上と下、全然違う雰囲気だけれど、どちらも優しく迎えてくれる。帰り道、一人だけの密かな楽しみ。私だけの時間。
さてそろそろ帰ろうか。お、あれは人工衛星。今日も一日、頑張った。
(さく)
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※本記事の内容は2021年7月時点の情報に基づいたものです。
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写真:眞柄 利香