トンボ玉の温もり

「私オルゴール作った!」「俺は吹きガラスだよ」
私が中学生の時、小樽へ自由研修に行った。クラスのみんなが集合した時の会話とキラキラした笑顔をよく覚えている。

それぞれ手にしていた作品はどれも職人さんに教わって作ったものだ。もの作り体験が必須なわけではなかったが、見事に全員プランに入れていた。

仲の良いクラスだったがこんなところまで揃うなんて、とほっこりしたことを覚えている。しかし、それはきっとクラスの仲の良さを感じたからだけではない。小樽のぬくもりに触れたからだろう。

小樽は体験工房が豊富だ。堺町通りなんかに顔を出してみれば、立ち並ぶ歴史的建造物の中にあなたのお気に入りの工房がきっと見つかる。

私はトンボ玉を作った。当時まだ子どもだった私は、大人の雰囲気が漂うお店に入るのに緊張していた。
しかし、勇気を出して扉を開けると職人さんがにっこり優しい笑顔で迎えてくれた。その笑顔に吸い込まれるように店内に入ると、穏やかなBGM、ほのかな木の香り、きれいに並んでいる色鮮やかな作品、そして職人さん。

自分をそっと包み込んでくれるような温かい空間がそこにはあった。完成したまんまるのきれいなトンボ玉は薄暗い照明の元でキラキラと輝いていた。

職人さんはやっぱり優しい笑顔で褒めてくれる。友人が体験をしている待ち時間は、スタッフさんが隣でたくさんお話をしてくれた。私と同じくらいの年齢だったころの話から小樽への思いまで、素敵な話ばかり。私の悩みも寄り添って聞いてくれた。心がすっと軽くなるような不思議な時間だった。

時はあっという間に過ぎ、最初の緊張とは裏腹、お店から出ると寂しささえ感じふと振り返ってしまう。職人さんとスタッフさんが笑顔で手を振ってくれていた。私も腕をいっぱいに伸ばして手を振った。トンボ玉がさっきより熱く感じたのは気のせいだろうか。

小樽での体験はただものを作ることで終わらない。小樽自慢のぬくもりに1度触れてしまえば、あなたも自然と小樽に愛着が湧いてくるだろう。

(とうもろこし)


※本記事の内容は2021年7月時点の情報に基づいたものです。

写真:眞柄 利香