君と小樽で大福を。
大福の粉が口の周りについている。君はおいしいねと僕に笑顔を振りまく。いつもはあんなに身だしなみに気を遣っている君が、ほら、服にまで粉がついてしまっているじゃないか。
せっかくお気に入りのワンピースを着てきたのだろう?大福を食べるために早起きしてきたんだ、今日はまだこれからだっていうのに。
この僕らお気に入りの店「ツルヤ餅菓子舗」に来るのは何度目だろうか。
小樽の観光協会のキャッチコピーは「また来たくなる街 小樽」。初めて知った時にはもう何度も訪ねていて笑ってしまった。そして小樽に来るたびに寄るのがこの和菓子屋だ。
閑静な住宅街に北海道では珍しい木造の家屋にレンガの煙突。小樽の歴史を感じさせる店構えにやられてしまったのである。どうやら大正時代から続く老舗で、創業年月日は法務局もわからないそう。
そんなエピソードを聞きながら僕たちが食べるのは豆大福。この凸凹したフォルムにブサカワ心がくすぐられる。甘塩っぱいものを作った人を恨みそうになる。「緑茶も一緒に」なんて絶対危険。食べ始めたが最後、顎が外れるまで止まらないだろう。
僕らは生粋の和菓子好きで休みのたびに和菓子屋を巡るのが趣味である。ただ、札幌市外にまで足を伸ばすことは滅多にない。
なのに小樽には招かれたかのように自然と体が向かってしまう。その理由は君が口に粉をいっぱいつけても気にせず大福を食べ続けてしまう理由と変わらないように思える。
きっと僕たちはこの街にしかない手軽さと珍しさに魅了されているんじゃないか。札幌にも恵庭にもない歴史を感じさせる街並みや早くから開かれた港町の趣に心を躍らせてしまう。
その体験は小樽でしかできない。そのくせ列車一本で着いてしまう。そんな魅力に僕らはお呼ばれしてしまうのだ。
帰りの電車で君は僕に次はいつ小樽に行こうかと聞いてきた。さっきまで小樽を満喫していたじゃないか、僕は大事に土産の饅頭を抱えながら笑ってそう言った。
(藤田ニヒル)
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※本記事の内容は2021年7月時点の情報に基づいたものです。
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写真:眞柄 利香