屋形船

 小樽港には北海道唯一の屋形船がある。東京の隅田川に数多あるお座敷の屋形船である。事前予約で借り切って宴会をしたり、日中の時間は定期的に港内遊覧もおこなっている。 私、残念な事にこの屋形船に乗船する機会に恵まれなかった・・・。

 それがコロナ禍の影響で、乗船客が大幅に減少した対策として、小樽市民を含むグループには半額で乗船できる割引制度をシーズン一杯適用することが、新聞等で紹介されていた。今年は乗船できる機会が訪れそうだと家内と話していた9月最終日曜日のこと。

 前日に義両親の法事を済ませた私たち親戚一同7名は、屋形船か運河クルーズ船のどちらかに乗れたらと観光駐車場に車を停めた。

 件の観光船乗り場に歩いていると「あおばと」10時出航の看板が・・・。てっきり屋形船のことと勘違いした私たちは、足早に係員に乗船希望を伝えた。

 切符を買う段になり、これは祝津行きの定期船だと教えられ・・・。目的の屋形船は11時まで出航しないと言うではないか。仕方なく運河クルーズ船乗り場に向けてとぼとぼ歩いていると、追ってきた係員からなんと7名のために屋形船の臨時便を出してくれるというではないか!!!

 私を含め全員屋形船「かいよう」に初めての乗船。船内はご存知お座敷なので土足禁止。真ん中一列にテーブルが設置されている。その中心のテーブルだけが掘りごたつになっている。早速、全員楽な掘りごたつテーブルに陣取り、いざ出航!!!

 操船は、新日本海フェリーの元船長との事。約40分の港内遊覧の始まりである。
 「私は話し好きなのでしゃべり続けますが、気にしないで景色を楽しんでください」
 のっけからガイドのおじさんの掴みはバッチリ!!!

 第三埠頭基部から出航し、左手に色内埠頭を見ながら、土木遺産の北防波堤、島防波堤、南防波堤と進み、防波堤で羽を休める大きな海鳥たちの存在を初めて観察。港内から見る平磯岬の銀鱗荘、築港地区、間近で見る2万トン級の新日本海フェリー等、貴重な体験をさせていただいた。

 小樽観光の人気第一位といわれる運河クルーズ船には、何度も乗船しているのであるが、今回初めて港内遊覧屋形船の魅力を大いに認識させていただいた。港内から小樽の市街地を見られる機会は滅多にない。明治初期、多くの人々が新天地北海道目指してこの小樽港に上陸している。古の北前船もしかり。小樽の町並み、山々をどんな気持ちで見ていたのかとふと考えてみた港内遊覧だったのだ。

(斎藤仁)


※本記事の内容は2020年12月時点の情報に基づいたものです。