水天宮と小樽海

水天宮は相生町の外人坂を登った先の山頂にある。安政6年(1859)に創祀された水天宮は、水の神を奉っている神社で小樽の歴史的建造物である。
桜の名所としても有名で、春には観光客でにぎわう。6月には例大祭が開かれ、多くの人々がお祭りを楽しむ。私はこれらの行事が終わった初夏に水天宮を訪れた。

長い階段を登り切ると急に視界が開ける。そしてうぐいす色の屋根が特徴的な社が見える。左右には見上げるほど大きな狛犬が配置され、もの静かな雰囲気でたたずんでいる。
参道を進んでお参りをした後、小さなベンチに腰掛ける。すると、ここから海と小樽港を一望することができる。

小樽から見える海は質素で暖かい印象を受けた。波は低く、青空よりも少し濃い色をしている。私は出身が釧路なので、海といえば曇り空を反射した灰色で荒い海を思い浮かべる。
もちろんテレビでハワイの海など様々な海を見たことはあるが、小樽の海はどれとも違って見えた。単純に太平洋と日本海の違いといえるかもしれない。しかし、目の前の海は「小樽海」とでも名付けたくなるような特別な個性を放っていた。

そんな考えを巡らしていると、緩やかな風が吹いて周りの木々がかさかさと音を立てる。風が一緒に悩みや疲れを取り去ってくれるような気がした。
水平線を見ていると、だんだんと海と空との境がぼんやりしてくる。自分も滲んだ青に染まるような心地がして、海が私を暖かく包み込み、寄り添ってくれる感じがした。

このような感覚になるのは小樽の歴史を見ると納得できるかもしれない。
はじめは小さな漁村だった小樽は、石炭を運ぶための鉄道が引かれると開拓が進んだ。多くの倉庫が建てられ、住宅街を作るために尾根を切り崩した。水天宮はその際にとり残された山に建っている。すべて取り払ってしまうのではなく、自然を残したのである。

そこには自然と共生する小樽の姿が見て取れる。由緒ある水天宮と静かな海という景色には、そんな小樽を感じさせる。開拓の歴史と自然が調和する場所、そこから見える海は寛大で優しい小樽らしさを表している。

(Don. Búho)


※本記事の内容は2021年7月時点の情報に基づいたものです。

写真:眞柄 利香