奥沢水源地

 僕は日課の筋トレを終え、ランニングをしていた。その日は何んとなくいつものコースを外れ天神十字街を右に曲がり、天神町へ走った。

 あまり知らない街並みを楽しみながら20分ほどで行き着いたのが奥沢水源地だった。ごく普通な住宅街を抜けた先に大自然と美しい景色が広がっていた。

 小樽ではおなじみかま栄のCMにうつる「水すだれ」。小樽に住んでいながら、一度も現物を見たことがなかった。
 奥沢水源地は奥沢ダムと奥沢上水所から成り、歴史は古く、1914年(大正3)に造られた。積雪寒冷地で、かつほとんどの作業が人力で行われたため工事は難航をきわめ、完成に6年9カ月の歳月を要したという。また、奥沢ダム自体は2011年に、欠陥箇所が見つかり廃止された。美しい景観や歴史的価値から保存、活用されているそうだ。

 水管橋の真ん中に立ち、突然の非日常感を楽しんだ。正面には滝のように雄々しく力強い水が流れる水すだれ。左側には豊かな緑に白の取水塔と赤い渡桟橋。渡桟橋は創設時からあるもので2連のアーチが寄り添う様から「夫婦橋」と呼ばれているらしい。土、草木のにおいで胸をいっぱいにし吐き出す。その行為は疲れた心が洗われるようで心地よかった。

 奥沢水源地といえば小樽の水も有名だ。僕も高校生の時喉が乾いたら自動販売機で一番安かったのでよく飲んでいた。水に大した違いなんてないだろうと思っていた僕でも、さわやかな清涼感と舌ざわりで確かにおいしかったのを覚えている。
 そんな小樽の水は海鮮やスイーツ、お酒、それこそかまぼこなんかにも使われている。小樽の食、文化を形作り、100年以上の時間、小樽を支えてきたのだ。奥沢水源地に限らなくてもこのような場所は、小樽の至る所にある。本当にどこにだってある。僕は知っているのだ。だから小樽を走るのは楽しくてやめられないのだ。

 長居しすぎて冷えた足を無理やり動かす。名残惜しくも歩き出す。僕は奥沢水源地から走り出した。しばらくしてふと、見知らぬ細い道を見つけた。

 「…………………。」
 7秒くらい迷って無言で方向転換し、未知の領域を開拓しに行く。次の出会いに胸を高鳴らせながら。

 この後案の定道に迷った。いつもなら30分のランニングを、3時間かけて終わらせるのだった。

(コハク)


※本記事の内容は2020年8月時点の情報に基づいたものです。

写真:眞柄 利香