この坂を上がったら

地獄坂―――、その名の通り、ここまで上がってくると私のひ弱な足は悲鳴をあげる。

でも今日は違う。なぜなら今日は友人たちと一緒に旭展望台へ向かうのだ。

友人と楽しく坂を上がっていく私は、足がきついことなんて忘れている。地獄坂の途中から曲がって森の中に入っていくのだ。わくわくする。

日中の天気の良い日ならば、木々の間から光が差し込んで、アスファルトに美しいまだら模様を映し出す。車に抜かされると、羨ましいような、いや、でも、この木漏れ日に包まれてゆっくりと贅沢に時間を使って歩く自分に優越感を覚えたりする。

しかし、今日は友人と夜景を見に来たのだ。夜ということもあり、友人たちはみなテンションが高い。
みんなでふざけ合いながら進んでいたが、森に入るとはしゃぎ声は小さくなってきた。旭展望台へ向かう道は外灯が少ない。森の中は真っ暗闇だったのだ。

風が木々の葉を擦り合わせてザアッという音が響く。時折すき間から見える月が異様に眩しくて吸い込まれそうなほど綺麗で不気味だった。

カラマツ、スギ、シラカンバ、カタクリ―。ここには数えきれないほどの草木がある。それらの音が、匂いが、昼の時とはまた違った形で私達の五感を刺激するのだ。

「懐中電灯持ってくればよかったなあ。」なんて言ったりしていたら、前方に光が見えた。外灯がある。ゴールだ。目的の夜景の見える場所まで駆け上がると、そこには目下に広がる小樽があった。

きらきらと輝く小樽。夜の海は暗く厳かで、小樽の光をいっそう際立たせていた。「わあっ」と思わず息を吐く。私達はその景色をしばらく見つめていた。それはなんとなく、私の心をあたたかくしてくれるものだった。まるでずっと前からこの小樽がふるさとであったような―――。

そして、実際にこれからはここが私の第二の故郷になるのだ。この展望台に来て良かった。この街に来て良かった。そう思った。
「この街で頑張ろう。」そう思った私に、この景色は優しく背中を押してくれた。

(ぶるーとまと)


※本記事の内容は2020年8月時点の情報に基づいたものです。

写真:眞柄 利香