花園映劇跡

 花園映劇は、花園3丁目花園第一大通りと浮世通りの角にあり、向かい側にはミュージックホール(マノン座)というストリップ小屋、その隣は昭和一桁の築年代の上坂紙店、松竹ボウル(旧松竹映劇・現マンション)などがあった地域である。ご覧のように今は駐車場になっている。

 一軒おいて隣には小樽東宝があった。そこは東宝系邦画・洋画の封切館だったので、松ヶ枝中学校での全校映画鑑賞も含めて、何度も入ったことがあった。

 しかし、外国映画のB級作品上映の多かった花園映劇には、足を踏み入れる機会はほとんど来なかった。そんな花園映劇だが、私にはそこに一度だけ足を踏み入れた秘密の記憶があるのだ。

 私の実家では、毎年年末年始は、両親の故郷岩見沢で過ごす事になっていた。その不文律を私は一度だけ破った事がある。高校受験を控えた年末年始の事、両親には受験勉強に集中したいからとダメ元で言うと、なんと予想だにしなかったOKの返事をいただいた。

 早速、仲の良かった友だち二人を自宅に招き入れ、男三人で集中受験勉強をやることとなったのだ。また、友だちの親とも良好な関係を築いていたので、年末年始勉強合宿は、トントン拍子に決まっていった。

 ゲームも携帯も無い時代である。信じられないかもしれないが、本当に真面目に受験勉強していた。休憩中に新聞の映画館欄を見てみると、花園映劇のオールナイト上映映画が目にとまった・・・。題名は今でも覚えているが、あえて記載しない・・・。当時話題のB級洋画だったと書いておく・・・。

 一人では絶対に観に行けないのであるが、勉強疲れを癒すという名目で三人連れ立っての花園映劇に出かけて行ったのだ・・・。花園映劇での鑑賞は、後にも先にもこの一度きり、昭和40年代終わりの小さな冒険だった。

 小樽市内に最大23館の映画館があったそうだ。その全てが閉館し、解体されこのように駐車場となったり、新たな建物に更新されたりと歴史は上書きされて行っている。当然のことながら、その場所に映画館があったことさえ、時の経過と共に忘れ去られている。

 平成18年(2006年)5月、水天宮の例大祭に合わせて花園銀座三丁目商店街が、この駐車場で「映画の都・小樽・復活祭・キネマの花園」というイベントを開催した。

 奥の石蔵壁面に昭和38年(1963年)若杉光男監督作品、小樽を舞台にした「サムライの子」という日活映画の上映会を実施し、大きな反響と注目を浴びたイベントだった。名前を変えながら平成22年(2010年)までこのイベントは続いた。しかし、それ以降の開催がないのが少し残念なのである。

(斎藤仁)


※本記事の内容は2020年7月時点の情報に基づいたものです。