私に寄り添ってくれた小樽の味

 みなさんは、澤の露という飴を知っているだろうか。昔は「水晶あめ玉」とも呼ばれていたらしい。見た目は美しい琥珀色の宝石のようで、一粒口にすると保存料、甘味料が一切使用されていない自然の甘さが、ほのかなレモンの香りとともにやさしく広がる。明治44年の創業時から全く変わらない味だそうだ。

 私が初めて「澤の露」を知ったのは、高校3年生の夏に、大学のオープンキャンパスで小樽を訪れた時だった。
 その日は雨がザーザー降っていたのでお目当てのサークル見学もできず、さらには、気になっていた図書館も改修中だったのでかなり時間が余ったのだ。
 札幌から来ていた私はせっかくだし少し観光してから帰ろうか、と友人と話しながら小樽駅行きのバスに乗った。

 「わたし、これ買いに行きたいな」と友人が大学でもらった観光パンフレットを見せてくるのでのぞくと『澤の露』と書かれた黄色い飴の絵があった。本来、甘いものといえばパンケーキ!タピオカ!パフェ!という考えだった私は、正直「飴かぁ…」と思った。
 しかし、そもそもこの日のオープンキャンパス自体、友人に付き合ってもらってきていたので、せめて買わなくてもついていこうと思い、大雨の中、寿司屋通りの近くにあるという澤の露本店へ向かった。

 いざ入ってみるとなかはそう広くもなく、なにやら古めかしい調度品などがおいてあり、少し奥で店主と思われる男性が静かに座っていた。ある程度見回して、ショーケースに目を向けるとガラスの向こうには琥珀色の宝石が並んでいた。絵で見たときはただの黄色い飴に思えたのだが、透き通った水晶のような飴はなんだかすごくキラキラして見えて、なんとなく私も「これ一つください」と袋入りの飴を購入してしまった。
 さっそくひとつ食べてみると、甘さが優しくて、受験勉強に疲れていた心になんだか沁みた。

 一年経った今でもその味は覚えてる。あの雨の日に、あの『澤の露』はたしかに私の心に寄り添ってくれたのだ。あまり小樽に詳しくない私にとって、小樽の味はあの甘さだ。

(味噌煮込みマカロン)


※本記事の内容は2020年8月時点の情報に基づいたものです。

写真:眞柄 利香