幸せを呼ぶしかく。

 わたしはこの日小樽駅の4駅手前でJRを降りた。銭函駅である。友達と待ち合わせのために駅構内で待つことにした。そこには、キューブ型をした四角形が6個ほど並んであり、近所の住民であろうか、2人のおばあちゃんがそこに座って世間話をしていた。
 「変った形のいすだなぁ」と思いつつも私も座ってみることにした。座ってみると、特別座り心地が良いというわけではないが、木のぬくもりを感じることができ、なんだか温かい気持ちになった。

 友達と合流し、近くのカフェに入ることにした。するとそこには見覚えのあるものがおいてあった。「さっきの椅子と同じ形だ!」よく見るとそれは駅内にあった椅子よりも小さいサイズのブックスタンドであった。

 個性的な形のものが、こんな近くに何個も置いてあるのが不思議に思ったので、わたしは調べてみることにした。これらは「ゼニキューブ」というものらしい。
銭函在住のデザイナー白鳥考さんが、銭函のZとNをモチーフに考案したものであった。座った人が幸せになりますようにという意味を込めてつくられたキューブは、銭函のいたるところに置かれているそうだ。実際に、カフェを出た後に行った雑貨屋にも、ゼニキューブがついたネックレスが売っていたし、キューブの手造りクラフト体験の看板も見かけた。町全体が幸せを呼ぶ縁起物を大切にしていて、とても温かい町だなと体感した。

 気が付くと、銭函を訪れてからの私と友人は、なんだか優しい気持ちになっていた。「きっとあの椅子に座ったからだよ。」という友人のひとことに納得がいった。いつもは学校やバイトの時間に追われて忙しい生活をおくっているが、銭函に来てからの時間はゆったりと流れているように感じられた。

 小樽というとやはり小樽駅周辺の観光地が注目されがちである。だがしかし、ちょっと一息つきたいとき、気持ちをリフレッシュしたいときに銭函に足を運んでみてはどうだろうか。きっとあなたに幸せを運んでくれるに違いない。

(ちびぞう)


※本記事の内容は2019年7月時点の情報に基づいたものです。