松倉岩

 松倉岩は、奥沢水源地の奥の奥にある猫の耳のように見える二つ連なった岩だ。勝納川下流から眺めると遥か彼方にこの松倉岩が肉眼でも望める。

 奥沢本通を天神方面に上がって行くと、その松倉岩は段々近づくに従って大きくなっていくのだが、天神交差点を越えると、手前の山で隠れてしまい見えなくなる。奥沢本通の最終地点、奥沢水源池からは残念ながら全く見えなくなっている。

 この松倉岩にはその昔、松倉鉱山という重晶石(胃造影のバリウムの原料)を採掘する鉱山があった。

 私は、この松倉岩の近くまで車で行ったことがあるのだ。今から40年以上前の事である。免許取り立ての私は、これ以前に奥沢水源地奥の小樽峠を抜けて、赤井川の常盤ダムに出たことがあり、今度来た時は、小樽峠で分岐している反対側(松倉鉱山跡)に行ってみようと思っていた。

 奥沢水源地から穴滝入口までは、勝納川に沿ってゆっくり上って行き、今でもまったく問題なく行く事ができるのであるが、もうその頃には穴滝入口から小樽峠までは、勾配がきつくなるだけでなく、雨水や融雪水で道路の真ん中がえぐられ、時に倒木もあり、それらをうまく避けながら進んでいかなければならなかった。

 小樽峠に着くと、前述の分岐があり、あとは平坦な道が松倉鉱山跡まで続いていた。両側に草木が生い茂っている状態から、一気に視界が開けて広いグラウンドの様な鉱山跡に出る。既にその時点で廃鉱になり数年が経過していたのだが、古い木造の建物が残り、そのグラウンドのような広場も雑草が生い茂り、西部劇に出てくるゴーストタウンのような様相を呈していた記憶がある。

 後に、この松倉鉱山を運営していた堺化学の関連会社である共成製薬勤務の友人から、廃鉱になった後も、依頼があると少量だが重晶石を掘り出しバリウムを作っていたと聞いていた。掘り出した鉱石の運搬は、この林道を使わず、松倉鉱山から選鉱場のある天神町まで、大型バケットの付いた索道(リフト)で運んでいたのは、小樽市民でもなかなか知らない事である。

 ちなみに、この穴滝入口から小樽峠、松倉鉱山跡、常盤ダムへの林道は、現在は廃道となり、歩く事はできるのだが、車で通る事はできない状態となっている。これは私の免許取り立ての頃の小さな小さな冒険の思い出である。

(斎藤仁)