小樽の坂と季節

 小樽の坂は、季節ごとに魅力を変え、私をずっと飽きさせない。

 小樽は坂が多いことで有名で、地獄坂を代表として、街のいたるところに坂が存在している。そんな小樽に私が来たのは2年前の冬だった。小樽駅の改札を抜けて、新たな街への期待に胸を膨らませる中で、最初に抱いた感想は“坂がキツイ”だった。冬の小樽の坂は路面が凍ってずるずると滑り、上がるのも降りるのも一苦労だったのだ。

 季節が過ぎ春の陽気になると、坂の印象が少し変わった。

 雪解けと共に路面が表れ、歩きやすくなった坂は、下りになると楽しい。傾斜が厳しいので、歩くとスピードが出やすいのだ。高いところからは町と海が一望でき、映画のような非日常の始まりが目の前の景色からは感じられた。

 夏や秋にもそれぞれの楽しさがあった。

 夏は、暑くて坂をのぼるのが大変だけれども、長い坂を上りきるとささやかな達成感を覚える。汗をかく感覚とコンクリートから反射する熱気が心地よかった。

 秋は、坂の途中に植えられている木が葉っぱを散らし、強い風が体を煽る。高い場所にいるほど風を強く感じ、揺れる感覚がなんともおもしろい。景色は少し寂しいけれど、坂が私と遊んでくれて寂しさを感じなかった。

 2度目の冬が来た。

 この頃になると私は坂が好きになっていた。来たときはただつらかった冬の坂は、慣れてみると凍った路面を歩くのがとてもワクワクするようになった。滑って転びそうになるのを何とか堪えると、いつも笑ってしまう。子供の頃に氷の上を滑って遊んだ気持ちが、そのときよみがえるのだ。

 小樽の坂は、心に素直に響く。坂は観光名所にも負けない小樽の魅力の一つだ。

 “坂の町小樽“そんな風に呼ばれるのも、小樽を歩いた人たちが、この街の坂を魅力的に感じているからだろう。

 小樽はまだまだ魅力に溢れ、私たちの胸を打つ。

(ユーサク)