船ものがたり
学校帰りに坂を下っているとき、またJRに乗っているとき、ふと海の方に目をやると、そこには大きな船が一隻、ゆっくりと動いている。「新日本海フェリー」、それは、北海道と本州の都市を結ぶ航路であり、日々多くの人やものを運んでいる。
昨年3月、受験を終えほっとしていた私は、入学までに時間があったので、新潟に住む友人のもとを訪れようと考えた。
はじめは安くて早い飛行機を使おうと考えていたが、これから4年間通うことになる小樽と目的地である新潟を結ぶ航路に、新しいフェリーが就航したことを知り、せっかくなのでそれに乗って向かうことにした。
船の中はまるでホテルのようで、運賃も比較的安く、早くも満足感を覚えていたが、小樽から新潟まで16時間という所要時間の長さは、どこか気になっていた。そんななか、船が出航し、小樽港から徐々に離れ始めた。
船のデッキがあいていたので、外へ出てみる。まだ3月だったので、気温は低めだが、海上を吹く風がとても心地良い。港の方へ目をやると、海と山、大自然に囲まれた小樽の町が広がっていた。部屋へ戻り、船旅の時間にも慣れて数時間が経ち、夕暮れ時になった。
今度は何気なく船首の方へと向かう。そこで私は、この船旅で最も印象に残る光景を目の当たりにした。前方の景色が見える部屋に入り、窓に目をやった次の瞬間、眩しくも、どこか優しい光が目に飛び込んできた。それは、遠くの山に向かって沈む、美しい小樽の夕日だった。
ずっと見ていたくなる景色。それまでの忙しかった受験の日々や、“日常”というものを忘れさせてくれるような、ゆったりとした時間がそこには流れていた。
今でも、あのときの夕日はしっかりと目に焼き付いている。
船旅は、長い時間を伴い、利便性が他に劣る面もあるかもしれない。しかし、この「新日本海フェリー」では、飛行機や電車ではなく、小樽の海の上でしか味わえない、優しくてあたたかい景色、心を落ち着かせてくれる時間がある。
忙しなく流れる日常を一旦離れて、ぜひ一度、心と体が癒やされるこの静かな空間を体験してほしい。
(TaruSyu)