中野植物園

 小樽市にはその歴史の古さから、独特な雰囲気を醸し出しているスポットが多数存在する、そして「中野植物園」ほど妖しい空間はないだろう。
 この植物園は小樽市の北に位置する清水町にあり、なんと明治41年に創業した「私設」の植物園なのである。今年で110年目と思うと歴史を感じざるを得ない。

 私はある秋、写真部の活動として自然の写真を撮るためこの植物園に訪れたのだが、入園早々待ち構えていたのは錆びのついた遊具たちであった。
 それだけじゃない、多数の植物に囲まれてカモフラージュされているが、日本庭園さながらの石でできたオブジェがこれでもかというほど置かれているではないか。
 植物を見ることしか考えていなかった私は思考が追いつかず、先輩を含めた部員のほとんどは「なんだこれ」と笑いながらその異様な光景を眺め、写真に収めていた。

 美しい自然を撮るんだと意気込んでいた私は強烈に出鼻を挫かれたわけだが、私は不思議とその妖しげな雰囲気に引き込まれ、いそいそと苔むした石段を登っていった。
 石段を登った先にあったのはやはり錆び付いた遊具、しかし重要なことはそこではない。清水町が複雑な傾斜をしているからか、少し坂を上れば入り口近くの植物やぽつりぽつりと点在している一軒家が見事に眺望出来るのだ。「こんな手頃な眺望は小樽にしかないものだな」と偉そうに関心しながら、私は子供のようにはしゃいでブランコを漕いでいた。

 着地点にコンクリートが待ち構えた滑り台や、彫り跡が風化していて何も読めない謎の石碑といった意図の分からない物体たちを笑いながら、順調に景色を写真に収めていると先輩が「この山の頂上に行かないか」と一言。
 ここまで散々坂を上り続けた私は体力が限界に近かったが、中野植物園の雰囲気に操られてしまったのか、私には行かないという考えが出てこなかった。そんなに遠くないと聞き、嘗めてかかった私に襲い掛かったのは、かの地獄坂が可愛く見えるほど酷い傾斜だった。
 そんな試練を文字通り乗り越えた登頂者に与えられた景色は「壮大」としか言えなくなるほど圧巻で、360度一面に見える木々たちは緑・黄色・赤とまるで個性をぶつけ合うような頭をしていた。

 小樽には独特な雰囲気を持った景色がいくつも見られる。そんな景色・スポットを読者の方にも是非足を運び、探してみて欲しい。

(ぞらおー)