喫茶店での発見

 アンティークな扉を開くと、喫茶店特有の落ち着いた雰囲気が広がっている。各テーブルに焚かれたキャンドルが、来る人の心を休ませる。
 火という人にとって馴染み深い光は、スマホやパソコンからの光で日々刺激を受けている目には優しく感じた。
 ミューズという店はキャンドルの販売も行う、オシャレな喫茶店である。小樽にはたくさんの喫茶店があり、敷居が高くて入りにくい雰囲気を醸し出しているものもあるが、初めて入る客でもミューズは比較的居心地の良い店であった。
 それは人工の光では無いキャンドルの火が、小樽らしいゆったりとした静かな雰囲気を演出しているように感じたからかもしれない。

 私はサークルの先輩と昼食をとりにこのお店に寄った。
 日替わりパスタやとろとろのオムライスを堪能した後、デザートとして白玉ぜんざいが出された。こんなに洒落た喫茶店であるのに、しかも洋食のお店で白玉ぜんざい?
 私も先輩も突然現れた和菓子に一瞬違和感を抱きながらも、そのミニサイズのぜんざいを口にした。美味しかった。

 気になって後で調べてみると、小樽がかつて物流の拠点として栄えていた大正時代、現在ミューズがあった場所には長井砂糖店という店があったそうだ。
 長井砂糖店は市内でも名の知れた砂糖商だったらしく、そこでお客さんにふるまわれていたであろう「ふるまい餅」を意識して、ぜんざいを出しているとのことだ。お客さんをもてなすための、そして当時そこにあった砂糖店の姿を形として残すための心のこもったぜんざい。キャンドルが焚かれたお洒落な喫茶店で、よもや小樽の歴史に触れるとは。

 ルーツや歴史を大事に残そうとしている人たちの多い小樽では、このように驚くような発見や出会いがある。
 ふるまわれる料理の味や小樽らしい落ち着いた雰囲気だけでなく、かつて栄えていた小樽の歴史の一端も一度に味わえる店は、探してみると小樽にたくさんある。 

(an)


※本記事の内容は2018年2月時点の情報に基づいたものです。