樽猫日和
大変、遅刻だ。大学へ向かうために小走りで坂を下っていると、視界の端で灰色の塊が通り過ぎる。「ん?」と思って後ろを振り返ると、あちらも「ん?」とでも言いたげな顔をしてたたずんでいる。猫である。
小樽は猫が多い気がする。私の家の近所は特にそうである。春、両親がうちへ泊まりに来ていた時、朝散歩して帰ってきた父に言われた。「近所の階段になっている坂のところに猫がいっぱいいるぞ。」
猫好きの私にすると無視できない話だ。数日後の学校帰り、私もそこに寄ってみた。階段を上ると、言われた通り3匹の猫が日向ぼっこをしていた。3匹とも眼光鋭く、飼い猫とは思えないオーラ。しかし、みんな眠たかったのだろう。すぐに目が細くなってまどろんでしまった。その無防備な姿におもわず笑ってしまった。
それから私は友人たちとその坂を「ジブリ坂」と呼んで、時々猫を見に行っていたのだが、いつでも猫は私たちを気にも留めず気ままに過ごしていた。
私が「側溝ネコ」と呼んでいる猫がいる。坂の多い小樽は、雨水を効率よく下のほうに流すためなのか側溝の幅が広い。大きな猫も簡単に通れるほどだ。側溝ネコは1度側溝に入るとしばらくそこにたたずんでいる。その後、長く続く側溝を走り抜けてどこかへ行ってしまう。わざわざ狭い道を走り抜ける後ろ姿はなんだか滑稽だ。
その他にゴミ捨て場の中から飛び出してくる猫家族(親と子供は全く似ていないのだが)や、朝方友人の家から帰るときに私のことを先導してくれる案内ネコなどがいて、私の日常に猫は欠かせない存在になっていた。
考えてみると小樽の街は猫のようだ。
観光地の方は少し賑やかで忙しそうだけど、観光地を外れると気ままでのんびりとした空気が流れている。そういえば人々の足取りもなんだかのんびりしているような気がする。
賑やかでいろんな物がそろう大都市もいいけれど、猫がいて、和やかな雰囲気が漂う小樽の街だからこそホッとできるのだ。
(まる)