坂の上から。

 小樽には坂が多い。小樽は坂の町と言われるくらいだ。実際に小樽市は全国斜面都市連絡協議会という団体にも加盟しているほどに、坂が多い。

 坂を登るのはとても健康的だが非常に疲れる。実質登山のような気もしてくる。
 夏は滝のような汗をかき、冬になれば滑って骨折というのもよくある。坂に対する文句も多い。周りの大学生からも「エスカレーターをつけろ」「削って整地しろ」「坂の上に大学を造るな」などという声はよく聞こえる。

 しかし、坂がある良さというのもある。
 まずは住んでいる人達の優しさが挙げられる。小樽気質と呼ばれるらしいが、相手のことを思いやる気持ちが強いらしい。これは坂道で苦労する生活によって、地域の連帯感が強められたことによるらしい。

 実際、私もバスの待合所にいるときにご年配の方からよく話しかけてもらった。そして飴だのお菓子だのを頂いた記憶がある。遠慮しても持たせてくるあたり、(今日初めて会った人だよな?)と疑問を持ったこともある。そのくらい優しくパワフルな印象を受けた。

 そして、なにより景色が凄くよく見える。高い所にいることで海も見える。平地に比べると坂の上から見る景色は単に下に広がって情報量が増えるだけでなく、奥行きがあり、遥か遠くまで見通せる。
 春には下半分が桜色、真ん中奥に海の青、上の空色が相俟っている。夏には鮮緑と紺碧が力強い。秋には上にはみ空色、下には紅葉の赤・橙・黄色が映える。冬には白一面の遠くに見える船に哀愁が漂っている。四季だけではなく、朝・昼・夜でも海と空と町が織りなす光景で楽しめる。

 大学から坂を下るときに見える景色が私のちょっとした楽しみなのだ。3年間ずっと見てきていたはずなのに、毎日変化があり、いつも新鮮な気分になる。全く同じ景色がないということが昂揚させる。
 坂があることによって人の心の暖色系のイメージが感じられ、様々な景色でまた彩られる。小樽の町はほんの少し暖かい色をしている気がする。

(メメント)