思い出のゆり園

 春香町という、銭函と朝里の間に位置する小さな町があります。この町では7月中旬から8月下旬にかけて道内最大級の「ゆり園」が開かれます。
 4年前、私は東京からやってきた祖父と祖母と両親と一緒にここを訪れました。

 久しぶりに会った祖父と祖母は、私に会えることをとても楽しみにしてくれていました。ふたりは私に「どこか良いところに連れてってよ」と言いました。
 わざわざ北海道まで遊びに来てくれたのだから、ふたりの思い出に残るような場所に連れて行きたい。しかしどこに連れて行けば喜んでくれるだろう。
 母に相談すると、「おばあちゃんはゆりが好きだから、ゆり園にしたら?」と言われ、ゆり園に決定しました。

 ゆり園にはたくさんの色のゆりが咲き誇っていました。その景色を見た祖母はとても喜んでくれました。喜んでいる祖母を見て、祖父も嬉しそうでした。そんなふたりを見て、両親と私も幸せな気持ちになりました。祖母は私に、「こんなにきれいな景色を見たのは久しぶりよ。毎年ここに来たいわ。連れてきてくれてありがとう」と言ってくれました。
 その時の祖母は本当に嬉しそうで、私もゆり園が好きになりました。

 

 しかし祖母がゆり園の景色を見ることができたのは、その後一度もありませんでした。この話の2年後である一昨年、祖母は病気で亡くなってしまいました。私は、もう見ることのできなくなってしまった祖母の代わりにもう一度あの景色を見ようと、昨年両親と一緒にゆり園を訪れました。

 不思議なもので、同じ場所でも一緒にいる人が違えば違う景色に見えます。祖母と一緒だったあの時、私はゆりよりも、喜んでいる祖母ばかり見ていたのかもしれません。私にとっては祖母がいてこその、ゆり園だったのかもしれません。

 それでもやはりたくさんの色が並んでいるゆりはとてもきれいでした。祖母にも見せてあげたいなと思い、実家にある祖母の仏壇に供えるゆりの苗を購入しました。大事に育て、花を咲かせることができ、祖母にも見せることができました。

 今でもゆり園のポスターを見ると、祖母のことを思い出します。私にとってずっと、祖母との思い出の場所です。

(坂)


※本記事の内容は2016年2月時点の情報に基づいたものです。