あい田

小樽駅からすぐ左手にある階段をのぼってすぐにある三角市場。そこから入ってすぐに大衆食堂「あい田」がある。

暖簾をくぐって中に入ると、カウンター席のみが10席ほどという少し狭い店内で、手書きのメニューが壁に貼られていた。奥の席に常連のおじいさんが座っていた。席に着くとすぐに店主であるおばさんがお茶を出してくれたが、口をつけてみると熱くて舌が少しぴりぴりしてしまった。

私ははじめて来たというのもあって、少し構えてしまっており、下にあるメニューを凝視していた。いくら丼を注文すると、おばさんはもう一人いた若い女性の店員とともに常連のおじいさんと他愛のない会話をしながらいくら丼を作ってくれていた。

運ばれたいくら丼は純粋においしかった。食べている最中、もう一人おっちゃんが入店するやいなや私のひとつ隣に座り、ホッケ定食をオーダーしていた。

店内に流れていたワイドショーの話題、主に政治の話にあわせておじいさんとおばさんの会話が盛り上がってきていた。その流れに入るかのようにおばさんが私に向かって一言「どこからいらっしゃったのですか?」

札幌です。と答えると隣のおっちゃんが「俺名古屋なんだよ。」と言葉を発した。へー、おばさんは驚き声を上げた。私も距離の遠さに内心驚いてしまった。

それからというものの、店内は私とおっちゃんという新参者二人を加えて盛り上がっていた。
おっちゃんはスキーをニセコで同窓生とするために北海道に来ていたらしく、たまたま小樽に足を運んだと言っていた。年齢も聞いたが、とてもそうは見えない元気な人だと感じた。
おじいさんはおばさんいわく進学校の出身で、天狗山のふもとに住んでいるのだが、わざわざ歩いて通ってくるという。バイタリティーのすごさを感じることを聞かされた。

そうこうしている内にJRの時間が迫ってきていた。初めて入った店でここまで帰ることを後悔するとは思わなかったが、時間は時間なので仕方がない。帰る前に再度お茶を飲んでみたが、ちょうどいい温度になっていた。

駅からすぐ近くでありながら、こういったあったかい気分になれるというのは小樽のいいところではないか。

(久保和也)


※本記事の内容は2016年2月時点の情報に基づいたものです。