駅に響く鐘の音

 小樽駅の「むかい鐘」。あなたはこの名前を聞いたことがあるだろうか?

 私は小樽の大学に進学してから、ずっとJR函館本線の小樽行普通列車に乗って片道一時間、列車に揺られながら過ごしている。

 そんな朝の通学列車。毎日のように同じ線路を走っている列車に乗っていれば、窓の外を流れていく風景も見飽きたものになってしまう。

 しかし、今日はちょっといつもと違った。

 私は列車の中で一眠りしていくから、小樽駅を出る頃にはまだ眠い目をこすりつつ歩いている。そんな時だ。ふいに「カーン カーン」と、鐘の音が鳴り響いて、私は思わず驚いて頭が覚醒してしまった。

 無理もない、この場所でそんな音を聞くとは夢にも思っていなかった。

 どこからその音が鳴っているのだろう?最初は全然わからなかった。

 こんなところにきれいな鐘の音を鳴らすものがあっただろうか?頭に疑問をよぎらせつつ、あたりを見渡してみると、再び「カーン カーン」という音色が響いてきて、音の出所が分かった。

 小樽駅の入り口の前に、確かに鐘が置いてあった。観光客の家族だろうか?にこやかに笑みをうかべた子供が垂らされた紐を揺らして音を鳴らす。

 「カーン カーン」

 駅に響く音色。へぇ、こんなものがあったのか。

 小樽駅の入り口にある「むかい鐘」。昔は列車の到着を知らせるために、上り列車には2打、下り列車には3打と決めて鳴らされていたそうだ。

 今では人知れず小樽の街へと出かけていく人たちを見送っている。こんなに目立つ場所にあるのに、不思議と気づけない。たぶん、みんな前を歩くことに必死で、その鐘の存在が目に入らないのだろう。それは少し寂しい気がした。

 確かに毎日は忙しい。でも、たまには駅を出る前に立ち止まって、むかい鐘を鳴らしてみてはどうだろう。「カーン」と美しい、小樽の歴史の音色が駅に響くはずだ。

(モトフジ)