渡り鳥有楽町に帰る

yurakucho

 拝啓、お元気ですか。私は元気にやっています。早いもので、小樽を離れて4年目の秋を迎えました。

 

 この前、東京で小樽に出逢いまして、少しだけお伝えしたくお手紙を差し上げました。

 

 東京駅から南に数分ばかり歩くと、有楽町という街に着きます。日比谷と銀座に挟まれた街で、映画館や商業施設の入った高層ビルが煌びやかにひしめきあっているのですが、街のど真ん中を貫く新幹線のガード下には、煙がもくもくと上がっている焼き鳥屋さんや、昭和からずっと変わらないような果物屋さんが残っている街です。新しさと古さが心地よく同居している、といった表現が正しいでしょうか。

 そんな有楽町を、私は上京してきてから好きになりました。それは街の二面性に魅力を感じたからでもありますが、駅前に北海道物産店があったからという理由も大きいです。「どさんこプラザ」という名の物産店です。

 少し暑さが和らいできた9月のある日、急に故郷が恋しくなって、どさんこプラザに駆け込みました。今日はオレンジのナポリンあたり、もしあったら、あまとうのクリームぜんざいかマロンコロンでも買って帰ろうかな、なんて思っていました。小樽にいた時は特に意識しなかったのですが、離れると恋しくなるものなのです。

 

 店に入ると、入り口でおばちゃんがいかめしを売っていました。私は、あぁ、懐かしいなぁと思い、割烹着を着たおばちゃんに話しかけました。

 「これ、森町のですか?」

 「そうだよ。よく知ってるね。」
 「あんた、どこの人さ?」

 「小樽です。えっと、札幌の横の・・・。」

 「あら、小樽かい。私は札幌なのさ。今日ははるばる出て来たんだよ。下の方、そうそう、定山渓まで行かないあたり。」

「そうなんですね。」

 「私、実家が小樽でね、小さい頃はよく街で遊んでたんだわ。あれ、奥沢口ってあるしょ。そこからちょっと入ったあたり。」

 「奥沢口のあたりは高校の時によく通ってました。」

 「いいとこだよね、小樽は。坂多いけど、好きな街だわ。」

 私はハッとしました。ここは小樽なんじゃないか、と思ったのです。なんと言うか、いい意味でおせっかいな親戚のおばちゃんと話すような感じなのです。ちょっとせかせかして、トントントンと進む会話のテンポ。おたるの「た」にアクセントがくる感じ。私は、きっと、たしかに、このおばちゃんは小樽の人なんだ、と思いました。

 

 「ところであんた、こっちにきて何年さ?」

 

 唐突におばちゃんが切り出しました。
 私は、頭の中で指折り数えて答えました。

 「えっと・・・、4年です。」

 「そうかい。だいぶこっちにも慣れちゃったのかな?」
 「たまには、小樽に帰るんだよ。」

 私は買ったいかめしを手に持ちながら、こう思いました。あぁ、ここにも故郷はあったんだ、と。

 店を出ると、また日常の時間に引き戻されました。目の前に流れる時間と、「もうひとつの時間」との、一瞬の出会い。二つの時間は、意外と近くを流れているのではないか。そう思いました。

 

 

 季節の変わり目、どうぞ体調を崩さぬよう、お気をつけてお過ごしください。また、小樽でお目にかかれることを楽しみにしております。

(わ)