4年目の帰省

otaru_seaview

 たかだか一時間とそこらで新千歳空港に着き、快速エアポートに飛び乗った。途中札幌で降りて後輩と飲み歩き、終電一本前の電車で小樽へと向かった。眠かった。「ガタン」という振動で目覚めると朝里だった。なんとか眠らないように目を開け続けて小樽築港で降りた。キャリーケースをガラガラと引きずって国道側の入口に降り立つと、静まり返った駅前は夏特有の草と土の微かな匂いで満ちていた。そこから若竹の上の方に少し登っていって実家に着いた。0時を過ぎていた。

 あっちの家から実家までは1000キロ以上離れている。だけど飛行機は点から点への瞬間移動のようで、いまいち遠く離れている気がしない。そのためか、身体は小樽にいるのに、心はまだ小樽にたどり着いていないような気がした。はやく小樽の空気にどっぷりと浸からなければと思い、次の日の朝、市内を走ることにした。

 勝納川は奥沢水源地の更に南からミツウマの裏、潮陵近くの南樽市場の横、新日本海フェリーのターミナル付近を経て小樽港へと至る川である。川沿いに遊歩道ができたようなので勝納町から奥沢の方に遡上するようにゆっくりと走ることにした。空はカラッと晴れてさほどムシムシもしない天気だったので気持ちよく走れた。途中、奥沢で墓参りを済ませた。(周りの人たちやご先祖様はランニングウェアを着て汗だくで現れた私にびっくりしたかもしれない。)そして墓参りのあとそのまま家に引き返そうと思っていたところで、今回の帰省で一番の小さな発見をしたのだった。

 奥沢墓地から天満宮下の十字街に下る途中で勝納川を越えるのだが、その直前に港方向に登る坂道を見つけた。きっとこの坂は潮陵の上、ならみだてと尾形商店のあたりに通じる道なのだろうとは思った。そのまま無視して奥沢のバス通を奥沢口方向に走るか、それともこの坂を登って走るか。小樽人の宿命なのだろう、一瞬迷ったが坂を登って走ってみることにした。坂道は山が近かったので夏草が香って心地よかった。そして見つけた、初めて出会う小樽の風景を。坂があると面倒くさいと思うどころか好奇心から登ってしまうのは、きっと坂の上から美しい小樽の風景が眺められることを知っているからなのかもしれない。赤や青のトタン屋根で色鮮やかな民家が山の上まで建ち並ぶ奥沢の街と、その向こうに赤岩山、小樽港、フェリー、防波堤の灯台、もっと向こうに増毛の山々・・・。私はなんだかとても嬉しくなりながら思った。確かに小樽に帰ってきたんだ、と。

 帰りの機内、撮りためた写真を眺めながら帰省の日々を振り返っていた。心に残る風景に毎回出会えるような故郷があるのは幸せなことだった。今回の帰省は奥沢の上から見たこの風景が一番だな、次の帰省はどんな新しい小樽の風景に出会えるんだろうか。そう思いながら、飛行機は真夏の羽田空港に着陸した。

(わ)