冷たい風

kenaten

自分一人だったら知らないまま、行かないままだったかもしれない場所。
それでも、誰かは訪れるし、その誰かと一緒に来たから写真がある。
正直、撮影した理由が名前が面白かっただけとは言えない。

突然だが、私は小樽に祖父母が住んでいる。もう80を越えているというのに、祖父は元気に車を運転している。札幌に住んでいる私のところにも色んなものを届けにやってきてくれる。
ある日祖父がドライブに行こうと提案してきた。紅葉にはまだ早い秋の季節だ。

そんな祖父と祖母と自分と妹の四人で行った道内ドライブの帰り道。ふと、どこか見覚えのある景色で車が止まった。どうやら祖父母の家がある、小樽のあたりまで戻ってきていたらしく、小樽の街並みが見える展望所にきたようだ。
人気はあまりなかったが、果物を売ってる車が止まっていた。
こんなところにも人が来て買っていくのだろうか、なんて思ったが、そこまで気にすることもなくスルーしてしまった。
紅葉には早くても、風は十分秋の気配で、少し寒い。

足の悪い祖母の手を引き、いつも見ないアングルからの景色をぼんやり眺める。商大から眺める小樽とは、反対側からなので、別な街のようにも感じる。
普段歩いてくるような場所でもないため、そのままだったら私はこの毛無山の存在を知らないままだっただろう。
祖父とドライブするとこういった発見があるので面白い。
標高470mまでは、いくら坂と山だらけの小樽でもそうそう登らない高さであるわけだし。

毛無山。ケナシは多分アイヌ語だろうと予想は出来るが、他の字にする気はなかったのかと思って写真を撮る。
写真を見るたび、ドライブに行った日の事を思い出せるように。

(滝樹)