五香閉店
ついに五香が閉店となってしまった。
30数年前の超貧乏学生時代にお世話になったお店であり、そのことは以前の「おたるくらし」に書かせていただいた。
その思い入れの深い五香の閉店である。
閉店の噂を聞いたのは、今年の早いうちだった。
考えてみれば、もう30年以上行っていない。
これは行かねばなるまいと、名残惜しさと共に訪れたのは3月末だった。
30数年ぶりに訪れたお店は、やはり時の流れを感じた。
おじさん、おばさんも、正直、お年を召したかなと思った。
無理もない、あの頃20歳だった僕でさえ、ゆうに50歳を超えているのだ。
だけれども、テキパキと仕事をこなすお二人の姿は何も変わっていなかった。
それにしてもお客さんが多い。
僕は混むことを予想して、お昼をずらし1時半に行ったのだが、満員で座れなかった。
そして、ようやくカウンターに座ってまもなく、なんとお店が閉店になってしまった。
まだ1時50分である。
それほど混んでいるのだろう。
カウンターに座った僕は、忙しく働いているおばちゃんと少しお話することができた。
今のお店はなくなること。
その後、別な場所で再開するかどうかは何も決めていないこと。
昔を懐かしんでくれるお客さんが、たくさん来てくれること。
それでも、数十人の予約はお世話できないのでお断りしていること。
そうお話ししている間も、ひっきりなしに注文が入り、おばちゃんは休まる間もなくお給仕をし、おじさんも休むことなく中華鍋を振っていた。
本当に休む暇がない。
ずっと動きっぱなしである。
そのお姿を見ているうちに、僕はだんだん複雑な気持ちになってしまった。
僕は閉店の噂を聞き、こうやって昔を懐かしんで訪れてみた。
おそらく、周りのお客さんもそうであろう。
だけど、あの頃から確実に30年以上の時間は流れているのだ。
正直、おじさんもおばさんもお年を召しているのだ。
「少しつらいのでは」
そう思ってしまった。
これは僕の勝手な思いである。
本当は、お客さんが来てくれてありがたいと心底思っているかもしれない。
だけど、僕は勝手にそう思い、もう少しゆっくりさせてあげたいと思ってしまった。
実は3月に五香を訪れたのは、6月に閉店となることを書こうと思ったからだ。
だけど「もう少し静かに」と思ってしまった。
だから、今まで書けなかった。
この投稿が載った頃、五香はもうない。
本当は、もう一回行って餃子を食べたかった。
だけど、あの忙しそうなお二人のお姿を見て、僕は思い出に留めておくことにした。
お店を再開するかどうか、僕には分からない。
だけれども、今、僕は心の底からこう思います。
お疲れ様でした、
長い間ありがとうございました。
いつまでもお元気で。
(みょうてん)