手宮千成

sennari

 創業昭和8年(1933年)小樽の老舗千成(せんなり)寿司は、手宮の能島通りにある。観光客が集まる花園・稲穂地区の寿司屋通りからは車で10分ほどの距離だが、観光客の姿はほとんどない。この千成寿司、手宮界隈の市民はもとより、お寿司にうるさい小樽市民にも大変人気のお店だ。

 社長の釜石哲男さんは、私の小樽JC時代の後輩で、さらにお店の所属する能島通り商栄会の社交ダンスサークルをうちの教室でやっていたこともあり「てっちゃん」「せんせい」と呼び合い、大変仲良くさせていただいている。

 パンチパーマの風貌に似あわず大変腰が低く、如才なく店を切り盛りしている。小樽で一番葬儀を取り仕切る小樽典礼の社員が、お客さんからの忌中引き料理の要望が一番多いのが、ここ千成だと言っていた。

 5月に総合体育館で開催された2年に1度の「全道ダンス競技大会」の審査員を含めた市外役員50名分の昼食弁当を、毎回ここからお願いしている。小樽大会は毎回弁当がすばらしいという事が、定説になっている。予算は800円と決まっているので、決して高いわけではない。ただ、旬の刺身などが豪華に入っているのが、好評の要因のようだ。

 さて、社長の「てっちゃん」は高校卒業後、京都の有名料理店で修業し実家である、千成寿司に戻ってきた。体格が小柄でやせているので、社長になってからも口の悪いお客さんには、よく若い職人と間違われ
「兄ちゃん、ちゃんと握れるのか???、慣れた職人呼んで来いやな、社長に言っとけよ・・・!!!」
「すいません・・・、私がその社長でして・・・」
「あっ・・・、兄ちゃんが千成の社長か・・・」
こんな悪態をつかれても、ご覧のようにうまく立ち振る舞うのが「てっちゃん」だ。

 おたる潮まつりの初日金曜日夕方に、小樽市内の各地例大祭カラオケ大会優勝者が一堂に会し、その年のグランドチャンピオンを決める大会がある。彼は3年前のその大会で見事優勝を遂げたノド自慢でもある。

 地元の手宮まつりでは、優勝者は次回から出場できないという規定があるので、審査員も心得たもので、てっちゃんを毎回出場させるために準優勝以下にすることが、暗黙の了解にしているそうだ。前述グランドチャンピオン大会の時は、龍宮神社のカラオケ大会優勝者としての出場だった。

 優勝がよほどうれしかったのか、翌日潮まつり事務局に、ボランティアでお祭りを下支えしているメンバーに対し、大量の太巻きの差し入れが届いたそうだ。「てっちゃん」は、遊びも仕事も一流の小樽稀代の職人の一人だ。

(斎藤仁)