小樽峠

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 読者の皆さんは、小樽峠をご存じだろうか???

 小樽にある峠というと、国道5号線の張碓峠、定山渓に抜ける朝里峠、赤井川キロロに抜ける毛無峠が有名なのだが、奥沢水源地の奥に赤井川に抜ける林道がある。その道の頂上に小樽峠があるのである。

 現在は毛無峠が完全整備されているので、小樽峠を抜けて赤井川を行き来する人はいない。この林道、明治期にはできていたという。車も無かった時代、馬車か徒歩での通行だったのであろう。赤井川から農産物、小樽からは糞尿を運んでいたとの記録がある。

 私も免許取り立ての頃、何回かこの林道を抜けて赤井川まで行ったことがあった。

 この林道の入口にあたる奥沢水源地は、私の小中高炊事遠足の場所として何回も訪れていた。その奥に未舗装の道路があるのは昔から知っていた。小学校の時、担任の先生にこの道の事を聞くと、その道は昔、赤井川に抜けるのに使っていたのだと教えてくれた。

 昭和52年(1977年)夏、その年の春に免許を取った私は、この林道にオンボロカローラで果敢に挑んで行った。当時はほとんどの市民は知らなかった「秘境穴滝」・・・を目指してという事で・・・。

 写真の林道入口から、穴滝入口案内板までの数キロは、勝納川沿いに右に左に曲がりながら難所もなく、だらだらと上がって行った。

 段々と道の周りが木々に覆われ、穴滝との分岐点に到着する頃には、見える空の面積も狭くなり心細くなっていった。目的地穴滝はそこから0.5kmと記載されている案内看板。そしてもう一つの案内板には矢印と共に小樽峠と書かれている。よし、今回はここで下車せず、道の続く限り行ってみよう・・・。

 目的を簡単に変えてしまった訳は、うっそうと茂っている木々と水のせせらぎ、鳥の声に少々びびってしまい、軽装のままだと熊にでも遭遇したら・・・、などマイナス思考になっていったからであった。まあ、車から降りるのが怖かったというか・・・。

 もちろんそこから引き返すこともできたのだが、道の先への好奇心が勝り、小樽峠めざして車を進めて行ったのだ。

 この分岐点からは、きつい上りが続いた。道の真ん中が、雪解け水や雨水でえぐられている所や倒木などもあり、ほどなくこの道が車はほとんど通っていないことに気づき、すぐに挑戦を後悔したものだが、もうバックする技術も場所もなく、ただただ前進するしかなかったのだ。

 ほどなく小樽峠と書かれた案内板に到着した。まわりの木々で見晴らしが良かったわけでもなく、悪路をつたない運転技術で上がってきたというだけの達成感だったが、とりあえず目的を達成し、安堵したのを覚えている。

 ここも分岐になっていて、まっすぐ行くと松倉鉱山跡、右に下山すると赤井川の常盤ダム。今回は常盤ダムに向かって下山していった。ここからは比較的眼前が開け、林道と原野の区別がつかないところがあったり、キタキツネに遭遇したり、小樽川の源流を渡河したりしながら、やっとの思いで常盤ダムに到着した。

 帰りはUターンしてもう一度挑戦する勇気は当然なく、未舗装区間のまだあった毛無峠を通って帰ってきた。

 それ以降、穴滝、松倉鉱山跡など数回この林道を訪ねている。もうすでに廃道になっている箇所や切り替わった箇所もあるという。約40年前の思い出である。

(斎藤仁)