まるた

maruta

大学時代の仲間が関西へ転勤することになった。30数年来の付き合いの奴である。
関西に行ってしまえば、そう簡単に会えないであろう。
そこで、送別会を開くことになった。

場所は、あの「まるた」に決めた。
学生時代によく行った店である。

あの頃は、よくお世話になった。

蓋がトンカツの上にチョコンとのってくるカツ丼。
だって、カツがでかくて蓋が閉まらないんだも。
メチャクチャ旨い味噌ラーメン。
さんざん飲んだ後に、「まるた」の味噌ラーメンでよくシメたものだ。

そう、あの懐かしい「まるた」へ行くのだ。

が、あの当時数軒あった「まるた」も今や1軒しかなく、残念ながら、僕らがよく行っていたお店はもうない。

それでもいい。
「まるた」に行くのだ。

3月某日17時半頃、僕らは店の前に着き、扉を開け突入した。
しかし、そこにあったのは暗くて長い廊下だった。
「おや?」
と思いつつ暗い廊下を歩くと、もうひとつの扉があり、開けた。

すると、いきなりあの殺風景(失礼!)な昭和の時代の「まるた」が目前に開けた。

数名しか座れない狭いカウンター。
座敷に雑然と置かれた長い木のテーブル。
これぞ「まるた」だ。

僕らは早速一番奥のテーブルに陣取って、コートを脱いだ。
が、またすぐ着た。

まだ開店して間もないためか、店内が暖まっておらず、寒いのである。

が、そんなことに文句を言ってはいけない。
ここは昭和なのだ。
僕が住んでいたオンボロアパートは、一枚窓で真冬には部屋の中につららができたくらいだ。
それに比べれば何のことはない。

冷静に見回すと、店内にポータブル式の石油ストーブがふたつ。
そのうちのひとつは、先に来ていた商大現役応援団員にあてられ、
残りひとつが僕らにあてられた。

が、これがなかなか温まらない。
が、繰り返すが文句を言ってはいけない。
それをも楽しむのが「まるた」なのだ。

僕らは瓶ビールを頼み、それから、焼き物、揚げ物、漬物あたりをドンドン頼んだ。
そうこうしてるうち、現役応援団員が帰り、お客さんは僕らだけになった。

「よし、持ってくるべ」

と僕らは勝手にストーブを持ってきて2つ並べ、
「2連ストーブだぜ」
と子供のように笑い合った。

そして、ビールが焼酎に代わるころ、僕らはすっかり暖まり、どんどん学生時代に戻っていった。

そして、お勘定。

いいだけ飲んで酔っ払い、いいだけ食べた僕らのお勘定は、なんと一人当たり2100円だった。

飲み代まで昭和である。
さすがだ。

帰りにまたあの廊下を歩いた。
今度は電気が付いていて明るかった。
そして扉を開けると、そこはもう平成だった。

あの廊下は昭和へのタイムトンネルでないのか、そう思った。

(みょうてん)