七福神

glass_sculpture

「お正月用のガラス細工がほしい。」

二年ほど前、唐突に母がそう言った。
私の母は、家の中に飾る様々な小物に凝る人だ。玄関にいつも飾っている季節に合わせたガラス細工には、特にご執心だ。
そんな母の言葉に真っ先に思い浮かんだのが小樽のガラス細工だった。

私が高校に入学するまでは、家族みんなで毎年のように小樽に行ってガラス細工などの店が立ち並ぶ通りを歩いて一軒一軒見て回るというのが我が家の恒例行事だった。
勉強やら部活やらで忙しくなるにつれ、次第に遠ざかってしまったその場所へ、母の希望を叶えるべく数年ぶりに足を向けた。

収穫は上々。正月用にと、家族そろって一目ぼれした七福神のミニチュアガラス細工と鏡餅を模したガラス細工を購入。
他にもいろいろ店を回るうちに次第に楽しくなってきて、財布のひもが思わずゆるむなんてよくあること。母は様々な楽器を持ったオーケストラ風のサンタクロース達を、父は自分用の酒器を。ちなみに私はちょっと値の張るガラスのペンを買ってしまった。
財布は少々軽くなったが、心はなかなかに満たされていたのを覚えている。

そんな出来事以来、私たち家族は以前のように毎年小樽へ足を運ぶようになった。
今年はいつごろ行こうかなんて考えていたら、

「そろそろ節分用のガラス細工がほしい」

なんて、母がこれまた唐突に言い出したので、近いうちに行くことになりそうである。母のお眼鏡にかなうものがあればいいけれど。なくてもきっと、そのとき良いと思ったものを買ってしまうのだろう。

毎年少しずつガラス細工が増えるのをみると、ふとそれを買った時の楽しかった思い出が蘇る。今年は何か新しいものがあるだろうかとまた行きたくなったりもする。
もしかしたら、小樽のガラス細工には何度でも足を運びたくなるような、目に見えない何かかが隠されているのかもしれない。少なくとも私たち家族はそんな何かの虜である。

今年新たにお正月飾りの仲間入りを果たした門松を模したガラス細工と共に、今年もまた我が家の玄関では七福神が笑っている。

(池田)