小樽駅の桜とチューリップ
春になったら船見坂を登ろう。
きっと長い冬が終わって春がやってきた喜びに溢れる小樽の街が見えるから。
もしも桜が咲いていたら、帰りは寄り道、跨線橋を渡らずに小樽駅の裏側に行ってみよう。
きっと満開の桜の下に色とりどりのチューリップが咲き乱れているから。
初めてこのチューリップに出会った時、近所に住む年配の女性が声を掛けてくれた。
「きれいでしょ?お花が好きなの?私も好きよ。お花が好きな人はみんないい人よ。」
と突然声を掛けられ、少々驚いたが、その女性のいかにも幸せそうな優しい雰囲気に心が和んだ。
せっかく話ができたので尋ねてみた。
「このチューリッップは近所の方が植えたんですか?」
「そうなのよ。その人、今は体の調子が悪くて手入れもできないんだけどね。」
そう言われれば、たしかにチューリップの周りには雑草が生えている。以前はきれいな花壇だったのかもしれない。それでもチューリップは元気に咲いている。
チューリップと桜の花の向こうには余市に向かって走る列車や回送列車が通り過ぎる。
とても優しい午後の時間が流れていた。
その翌年、やっぱり桜とチューリップは一緒に咲いていた。
今年ももうすぐ小樽に桜の季節がやってくる。
今年も小樽駅の裏側の、あの桜とチューリップは元気に咲いてくれるだろう。
そして、きっと近所の人たちが、この桜とチューリップを眺めながら井戸端会議に花を咲かせるだろう。
(まがら りか)