旧越中屋ホテル

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北のウォール街交差点、本局の隣に位置する、旧越中屋ホテルは昭和6年(1931年)築の、鉄筋コンクリート造4階建、北海道初の洋風ホテルであった。北海道初の本格的洋風ホテルと自称する、札幌グランドホテルの開店が、昭和9年(1934年)であるので、その3年前に小樽には、ホテルがあったということになる。ちなみに、明治10年(1877年)創業で、現在も近所で営業を続ける、小樽の和風老舗旅館、越中屋の洋風別館であった。

紆余曲折あり、戦前は陸軍の将校クラブ、戦後は進駐軍が使っていたという。その後、越中屋に戻されたが、長らく北海製罐の独身寮として使われていたという。私がこの建物を記憶しているのは、この製罐からだ。

昭和50-60年代、入口には「罐」の字を含む木の古びた縦看板が掲げられていた。それがゆえに北海製罐の関連施設であることは、容易に想像できた。同時に、錆びて半分朽ちかけた、旧越中屋ホテルの案内板もあり、この建物の簡単な解説が記載されていて、建物自体も、大いに時代を感じさせていた。

その後、昭和61年(1986年)、小樽と札幌の境目小樽市星野町に進出した、アドバンテスト社のゲストハウスとして、ほぼ現在の姿に再生されたが、残念な事に一般公開はされなかった。

平成5年(1993年)に、稲穂町の小樽グランドホテル別館「小樽グランドホテルクラシック」として営業されたことにより、誰でも中に入れる状況が生まれた。私は、この頃に建物内部に数回入ったことがある。残念ながら平成21年(2009年)2月に、閉店し、現在は写真の状態である。

正面ファサードは、全面褐色のタイル貼り。中央には2列のベイウィンドウと両脇上部の丸窓が特徴の意匠があり、ステンドグラスや内装は、アール・デコ様式の影響を受けている。小樽市指定歴史的建造物のみならず、経産省「近代化産業遺産群33」にも指定されている、この建物の再開を多くの市民が望んでいる。

(斎藤仁)