お父さん預かります

minoya

寿司屋通りを抜けて堺町商店街に入るとすぐにあるのが、冒頭の宣伝文句が書かれた看板が印象的な、「利尻屋みのや不老館」である。

寿司屋通りでたらふく寿司を食べて折角堺町商店街に足を運んだのに
「腹一杯で歩くと脇腹が痛くなりそうだから少し休憩しよう。」
と駄々をこねる「お父さん」を、「商店街の入口にあるこの店で預かるから気が済むまで店を回ってください。」という、奥様や子供達への粋な計らいであろうか。
「みのや」に預けられた「お父さん」達が店内に預けられているのを想像すると少し面白い。

そんなくだらない想像はここまでにして、私がこの店を訪れたのは2年前の、年が明けてすぐの、ちょうど今と同じ時期である。
大学帰りにたまたまその時一緒に地獄坂を下っていた友人が小樽観光をしたいと言い出したので、そういえばまだ商大に入学してからまともに小樽観光はしたことがないと思い、日本屈指の観光地「小樽」を観光することになった。

歩き始めて20数分、とにかくしばれて観光どころではない。どこかで骨身を温めなければ肺から凍りついてしまうということで、寿司屋通りをうろうろして堺町商店街に入ってすぐのところになんだか面白い看板があるではないか。

「お父さん預かります。」

意味はわからないが面白いので、寒さに震えながら店内を覗いていると店内にいる店員さんらしきお姉さんが

「暖かい昆布茶いかがですか。」

とおっしゃって、寒さに震えていた私たちにはもちろん断る理由はないので、「いただきます。」と答えるなり店内の中に転がり込んでいった。店内は年季が入った木造で、冷え切った体を暖かく出迎えてくれた。
「利尻屋みのや」は利尻昆布を扱う専門店であり、店内には利尻昆布を原料とした関連商品が数多く置かれていた。中には不思議なネーミングのものや、いわゆる「高そう」なものなど、いろいろあった。

そうこうしていると店員のお姉さんが昆布茶と、さらにがごめ昆布を粉末状にしたものを入れた味噌汁を持ってきてくれて、それらの説明をしてくれた。お姉さんによると、味噌汁に添えられている小さじで混ぜると面白いことになるらしい。
早速小さじで混ぜてみると面白いくらいに味噌汁全体が粘ってくる。混ぜ続けているとまるでスライムのようになってしまった。ずっと混ぜ続けていても仕様がないので飲んでみると、濃厚な磯の香りと程よい塩っ気ですごく美味しくあっという間に飲み干してしまった。
味噌汁を飲み干し人生初の昆布茶をすすると、お吸い物のような上品なしょっぱさと口当たりがとても心地よく、これまたあっという間に飲み干してしまった。
この店について私が思ったことは、「温かさ」と「雑多さ」である。この小さな利尻昆布専門店にも「小樽の昭和」を感じることができる。

ちなみに屋根の上についている時計台には針がない。この意味は「利尻屋みのや不老館」の「不老館」という名前を見れば解るでしょう。

(勇)