純喫茶 光

cafe_hikari

 「純喫茶光」は小樽で最初のアーケード街、都通り商店街にある創業昭和8年(1933年)の老舗喫茶店である。現マスターの小林満さんは、私の音楽仲間であり、大先輩だ。小樽の音楽界でも有名なベーシストで、何度か私のバンドで、トラ(代役)演奏していただいている。また、1972年開催の札幌オリンピックアルペン代表候補になったほどの、スキーの腕前は今も健在だ。

 お父さんの小林光さんがはじめたこのお店は、満さんの代になっても、頑なに創業当時のまま、純喫茶として営業している。巷間はやりの食事を出し、レストランとの線引きが曖昧な喫茶店とは、一線を画しているというわけだ。メニューも昔ながらの喫茶店を想像していただけるとわかりやすい。

 店に入ると、古き良き昭和の時代にタイムスリップしたかのようだ。店の調度品は、骨董品好きの先代のコレクションで、所狭しと飾られて、お客さんの目を楽しませてくれる。店内撮影禁止の貼紙が、荘厳な雰囲気をさらに醸し出している。

 マスターに会いにたまに店に遊びに行くと、一番奥のボックスに案内され、美味しい濃いめのコーヒーをご馳走してくれる。毎日午前中に、先代から教わった方法で、自ら焙煎するこだわりのコーヒーだ。これを頼むと、スプーンに角砂糖2個を乗せ、懐かしい袋入りカステラが付いてくるのが、光のルールだ。お客ではない私には、角砂糖もカステラも付かないが・・・。

 2001年発表の嶽本野ばら作「カフェー小品集」という日本全国12のカフェ、喫茶店を題材にした短編集があるのだが、この中にここ光を舞台とした恋愛短編小説が載っている。
ご興味のある方、是非一読をおすすめする。

 余談だが、先代と自分の名前をもじり「光、満つる場所」のコンセプトでトイレを大規模改装し、なんと和洋折衷、土足禁止、天窓付きの物を作ってしまった。美味しいコーヒーとカステラを食した後、帰り際、ここを訪れるのも一興かと思うのだが・・・。

(斎藤仁)