階段式溢流路(いつりゅうろ)

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奥沢水源地は、私が通った緑小学校、松ヶ枝中学校、潮陵高校の炊事遠足定番会場だった。最近とても有名になった階段式溢流路(いつりゅうろ)には、昔から立入禁止区域で、近づく事はできなかったが、あの「水すだれ」を見ながら、北海道特有の炊事遠足、これまた定番であるジンギスカン鍋を食したものだった。ここは、私の原風景の一つとなっている。

美唄にいた時、バス遠足で、三笠の桂沢ダムに行ったことがあった。大きなコンクリート製の堰堤と人造湖。そこは、宿泊施設やボート遊びもできた一大公園だった。小樽に来て、初めて水源地と聞いた時、その桂沢湖を想像し、友人にそれはダムだろ?と尋ねた。しかし、予想に反し、いやいやダムじゃない水源地だ、という答えが返ってきた。

何を言ってるのだと、子供心に思ったものだが、現地に着くと、確かにダム特有のコンクリートの堰堤は見えない。ここはダムではなく水源地なんだとずっと思っていた。

奥沢水源地は、正式には奥沢ダム、大正3年(1914年)の完成とある。堤高が28.2mと決して高くなく、そのすべてを土で覆い、一部石積み部分が見えるだけだ。2011年に漏水が原因で使用停止するまで、北海道では最も古い水道用ダムとして約一世紀にわたり、小樽市民の水がめとして機能していた。

さて、件の階段式溢流路、21mの落差を10段に分けて下流に落とすようになっている。昭和40年前後まで、一番下の10段目を市民プールのように一般開放し、近隣の子どもたちの憩いの場となっていたが、水難事故が発生し、夏場の開放も中止になって現在に至る。

小樽には、多くの歴史的建造物、天狗山、オタモイ海岸に代表される景勝地があるが。この「水すだれ」の情景の美しさは、百聞は一見にしかずの例えそのものの場所である。

先人たちが、単純なダム湖とコンクリート製堰堤からの放水路を作らなかったことに、感謝しなければならない。

(斎藤仁)